星野俊也・大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
星野俊也・大阪大学大学院国際公共政策研究科教授

 ロシア軍は2月24日、ウクライナ各地の軍事施設を空爆。全面的な侵攻を開始した。「戦争」は、矛盾を抱えながらかろうじて維持されてきた世界秩序の「軋み」をあらわにした。AERA 2022年3月14日号で、「国連の役割」について、前国連日本政府代表部大使・次席常駐代表で、星野俊也・大阪大学大学院国際公共政策研究科教授に聞いた。

【時系列にわかる「ウクライナを巡る動き」】

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 今回のロシアの暴挙は、侵略を違法化し、「戦争の惨害から将来の世代を救(う)」とした国際連合創設の原点と国連憲章の根幹に真っ向から挑戦するものです。しかも、ロシアは「国際の平和と安全に関する主要な責任」を持つ安全保障理事会の常任理事国です。米英仏をはじめ日本を含む加盟国は、国連外交において取りうる手法のすべてを駆使して最大限強いメッセージを送っています。

 国連に限界はあります。最初はロシア非難決議案を安保理にかけましたが、2月はロシアが議長国ですし、拒否権行使は不可避でした。それでも拒否権が使えない手続きによって「平和のための結集」決議に基づく緊急特別会合の開催を総会に要請しました。平和のための結集決議は安保理が機能しないとき、代わって総会が行動するためのものです。

 ロシアの反対を逆手に取り、国際平和に立ちはだかるロシアの姿を見せつける戦法です。

AERA 2022年3月14日号より
AERA 2022年3月14日号より

 国連総会の緊急特別会合となると、全加盟国がロシアに向き合います。「ウクライナに対する侵略」と題された決議は141カ国の賛成(反対5、棄権35、無投票12)で可決されました。賛成国の数も重要ですが、特筆すべきはわずかな時間で安保理での決議案をさらに深掘りした決議に仕立て直したこと、それに96カ国もの共同提案国を積み上げたこと、3日間にわたり約120カ国・地域が熱のこもった演説をしたことです。

 主導した各国の外交努力を感じますし、侵略を許さないという国際社会の断固たる総意が明確になりました。ただし、拘束力のある安保理決議と異なり、総会決議は勧告にとどまります。国連として出せるメッセージはこれ以上ありません。

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