上野千鶴子(うえの・ちづこ、左):社会学者、東京大学名誉教授。女性学・ジェンダー研究のパイオニアで、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長/飯村豊(いいむら・ゆたか):政策研究大学院大学客員教授、元外交官。1969年、外務省入省。経済協力局長、官房長、駐インドネシア大使、駐フランス大使などを歴任 (c)朝日新聞社
上野千鶴子(うえの・ちづこ、左):社会学者、東京大学名誉教授。女性学・ジェンダー研究のパイオニアで、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長/飯村豊(いいむら・ゆたか):政策研究大学院大学客員教授、元外交官。1969年、外務省入省。経済協力局長、官房長、駐インドネシア大使、駐フランス大使などを歴任 (c)朝日新聞社

 日本の問題点を浮かび上がらせた、東京五輪やコロナをめぐる政府対応。世界にも報道されており、日本のイメージダウンは避けられない。五輪の開催中止を求める署名活動を呼びかける元交官の飯村豊さん(74)と社会学者の上野千鶴子さん(73)は何を思うのか。AERA 2021年7月19日号でオンライン対談した。

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──今回の五輪はコロナ以外にも問題が山積みでした。

上野:招致の際の贈賄疑惑とか、(建築家)ザハ・ハディドのスタジアム設計案の撤回、エンブレムの盗作問題、森喜朗氏(当時大会組織委員会会長)の女性差別発言など、様々な問題がありました。五輪がナショナリズムと商業主義に利用されていることはみんながとっくに感じていたことです。今回、五輪への嫌気が蔓延(まんえん)したことで、五輪のネガティブな面が改めて噴出しています。

飯村:森発言やコロナを巡る混乱は海外メディアも特派員たちが大きく書いています。そんな現状も含め、人口減少社会でイノベーションも起きづらくなった日本は、海外からは衰退しつつある国と見られています。

上野:おっしゃるとおりです。ICT(情報通信技術)が遅れ、リモートワークもうまくいかず、国産ワクチンもつくれなかった。コロナ禍で顕在化したこの状況は危機的だと思います。

■国として大きな過ち

飯村:国際的な日本の地位は明らかに落ちています。その割に危機感がない。そもそも五輪をやっているときじゃないですよ。

上野:海外メディアからはよくジェンダーギャップ指数や報道の自由ランキングの低さを指摘されますが、それだけじゃない。GDP(国内総生産)は今も世界3位ですけれど、1人当たりGDPはいつの間にか23位(2020年)まで落ちました。労働生産性はOECD(経済協力開発機構)加盟37カ国中26位(19年)です。日本の大学のランキングも低下しましたね。日本は二流国に転落しています。

飯村:ほかのことに国力を結集しなければいけないときで、それが政治の役割だと思うけれど、斜め右の方向に全力疾走してしまっている。国として大きな過ちを犯しています。違う方向に走ってしまったツケはいつか払わなければなりません。

上野:政治の向かう優先順位が間違っています。このツケがどれほど巨大になるのか、誰が払うのか。問題は山積みです。

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