■支持率低下で廃案に

 しかし、国民投票法改正案については、立憲民主党がテレビやラジオCMの規制のあり方などについて、「施行後3年を目途に必要な法制上の措置その他の措置を講ずる」とする付則をつける修正案を提出。全面的にそれをのむ格好で自民党は修正案を受け入れた。また、冒頭の入管法については、法務省は同法改正案を最後の最後まで成立させようと粘ったが、最終的には廃案になることが決まった。

 そもそも、同法改正案は、外国人の収容や送還のルールを見直す内容だった。しかし、3月に名古屋出入国在留管理局の施設で死亡したスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)への入管の対応が問題化。自民党は立憲民主党など野党が要求したウィシュマさんの収容中のビデオ映像の開示には頑なに応じなかった。実はこのビデオに関しては、与党の法務委員会メンバー内からも「これは相当、分が悪い」との声が漏れていた。それでも、政権の支持率が盤石であれば、野党の要求を蹴ってでも委員会採決を目指しただろう。

 決定打になったのは、この最中に発表された時事通信による世論調査だった。菅政権発足後、内閣支持率は最低の「32.2%」という数字を打ったのだ。この数字に自民党内はざわついた。なぜならば、内閣支持率が30%を割り込めば危険水域と言われているからだ。官邸はすぐさま同法改正案を「取り下げろ」と自民党の二階俊博幹事長に命じた。官邸関係者の一人は内情をこう打ち明ける。

「入管法改正に菅義偉総理は最初から関心がなかった。頭の中はコロナ対応と五輪でいっぱい。東京・大阪でワクチンの大規模接種が始まろうとしているのに、こんなことでオウンゴールを決めても仕方がない。よく出来た総理の鶴の一声でした」

 この官邸関係者によると、改正法案の見送りはいいが、絶対にビデオ開示はするな、と官邸は念を押したという。よほどの内容なのだろう。奇しくも、入管法改正案見送りが決定した5月18日は、去年、検察官の定年延長を定めた「検察庁法改正案」が反対する世論に押され見送られた日だった。(編集部・中原一歩)

AERA 2021年5月31日号より抜粋