■政府の対策「手ぬるい」

 ただ、ワクチンに関する井上さんの姿勢は、医学界では少数派とみられる。

 元厚生労働省医系技官で医師の木村盛世さん(55)は、ここまで井上さんが示した予防策の妥当性は認めつつ、ワクチンについては医療崩壊寸前の現状から脱却するためには、早急に高齢者に接種を行き渡らせることが重要だと話す。

「新型コロナの重症化率や死亡のリスクが高い65歳以上の高齢者が、日本には3600万人もいます。この方たち全員に1日でも早くワクチンを接種しない限り、収束も経済復興もありえません」

 政府は医療従事者に続いて高齢者への接種を進める方針だが、木村さんは現状の計画では手ぬるいと批判する。

「接種のペースを上げるため、医師や看護師でなくても一定の要件をクリアすればワクチンを打てるように医師法を一時的にでも規制緩和し、体育館などでどんどん接種をしなければ、とても間に合いません」

 木村さんが何より懸念するのは、医療体制の崩壊だ。

 そもそも集中治療室(ICU)など高度医療設備が乏しい日本では、新型コロナ問題が顕在化して間もない昨年4月の段階ですでに日本救急医学会が「救急医療体制の崩壊をすでに実感している」との声明を出すなど、医療キャパシティーの充実が叫ばれていた。木村さんが危機感を募らせるのは、それにもかかわらず、政府や厚労省が事実上何の手立ても講じてこなかったからだという。

■コロナも熱中症も怖い

 最後に、今や生活必需品となったマスクについてだ。

 木村さんによると、デンマークで5千人規模で行われた実験では、対象者を1カ月間、マスクを着けるグループと着けないグループに分けて新型コロナの感染確率を調べたところ、統計的な差は出なかったという。

「この結果は、予防効果がはっきりしなかったというだけで、飛沫で周囲を感染させるのを防ぐというマスク本来の目的を考えるとマスクはした方がいい。しかし、『マスクさえしていれば安心』という過信は禁物ということです」(木村さん)

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