日本では三菱地所など財閥系のディベロッパーが都心の一等地の多くを所有しているため、都心の大型物件が売りに出ることは極めてまれだ。今回の電通ビル売却のようなケースは、海外投資家にとって日本の大規模オフィスを取得する数少ない機会となるため、国内勢を交えた交渉金額は高騰が避けられない。

■存在感増す米国系企業

 そもそも、電通が1997年に貨物駅だった現在の土地を落札したときに競り合った相手は香港企業だった。14年にはシンガポール政府投資公社(GIC)が、東京駅前の大型ビル「パシフィックセンチュリープレイス丸の内」を買収した。華僑系資本の動きが活発な半面、これまで活発だった中国本土系の不動産会社の勢いには陰りがみえるという。中国政府が17年に海外不動産への投資規制を強化したためだ。

 外資による取引は詳細が明かされないことが多いが、カナダ系ファンドの「BGO」が武田薬品工業本社ビル(大阪市)や東京都心の大型オフィスビルを買収したと報じられるなど、実際には多くの物件を海外企業が購入しているとみられる。

 ここにきて存在感を強めているのは米国系だ。業界アナリストは「昨年比で日本に投資が向いている傾向が見えるのは、不動産投資資金の世界最大の供給元でもある米国だ」と指摘する。特に取引が多いのは、コロナ禍の中でも安定した賃料収入が見込める物流施設や、マンションなどの住宅だという。

 米不動産サービス大手ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)の昨年9月までの調査によれば、日本の不動産投資額の38%は海外投資が占めるとされる。世界的な金融緩和で運用先を探る投資家が多いことも背景に、日本の不動産市場への外資からの熱視線は強まりそうだ。(ライター・小松武廣)

AERA 2021年2月15日号