漫画も映画も大ヒットの『鬼滅の刃』が、数々の企業の株価を押し上げている。活気づく株式市場では「キメツノミクス」の言葉が飛び交う。AERA 2020年11月30日号では、『鬼滅の刃』の経済効果について取材した。
【鬼滅の刃、プロデューサーが語る「ヒットにつながる戦略」とは?】
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家族を鬼に殺された少年が仲間と鬼退治に挑む人気漫画『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴/ごとうげこよはる 作)は単行本の売り上げがシリーズ累計1億部を突破し、映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」も興行収入が史上最短の公開24日で200億円を超えるなど異例ずくめだ。玩具や食品など関連商品を手掛ける企業の株価も刺激し、「キメツノミクス」さながらの経済効果を発揮している。
■経済効果は2千億円超
「途中経過の興行収入200億円のざっと10倍としても、経済波及効果は2千億円になります」
こう話すのは三井住友DSアセットマネジメントの宅森昭吉チーフエコノミストだ。
「経済効果の推計には過去のパターンを基にした産業連関表で、各商品の売り上げが消費や投資をどの程度誘発するかを計算します。映画興行収入やコミックの売り上げは把握できますが、主人公の妹・禰豆子(ねずこ)がくわえる竹筒に似た羊かんの販売数量までは目が届きません。裾野が広く、経済効果の全容把握が難しいほどコラボ商品や企画が多いのが鬼滅の特徴です」
映画の配給元である東宝とソニーグループのアニプレックスによると、11月8日までの観客動員数は1537万人。日本人の8人に1人が観た計算だ。
JR九州は鬼滅の舞台となる大正時代に製造された蒸気機関車を「無限列車」に仕立てた臨時列車を運行。JR東日本も「鬼滅の刃×SLぐんま無限列車大作戦」と銘打って特別列車を走らせた。名物駅弁「峠の釜めし」の鬼滅版や描きおろしイラストの販売、謎解きイベントなども展開している。
缶コーヒーのダイドーグループホールディングス(GHD)が開示した10月のコーヒー飲料の売上高は前年同月比5割もアップ。主人公の竈門炭治郎(かまどたんじろう)ら登場人物を缶にプリントした「鬼滅缶」が引っ張った。全28種を集めようと自販機やコンビニを何軒も回るファンもおり、10月5日の発売から約3週間で販売本数は5千万本に達した。ちなみにダイドーGHD傘下のダイドードリンコは「どの缶も出現頻度は同じです」としている。