浜矩子/経済学者、同志社大学大学院教授
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 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

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 米大統領選が迫る中、トランプ・バイデン両候補による1回目のテレビ討論が行われた。到底、「討論」と言えるような代物ではなかった。特にトランプ大統領側においては、短絡、脱線、口から出まかせに終始した。

 問題は低級テレビパフォーマンスにとどまらない。トランプ大統領は、敗北に備えて結果を転覆させるための準備に余念がない。郵便投票は不正の温床だから、その結果はあてにならない。声高にそう叫び続けている。バイデン支持者の多くが郵便投票を行うことを見込んで、心理操作的煙幕を張っているのである。

 さらには、投票結果の有効性を巡って法廷闘争となった(あるいはそれを起こす)時に備えて、司法への介入にも乗り出した。9月18日に死去したルース・ギンズバーグ最高裁判事の後任に、お気に入りの保守派、エイミー・バレット連邦高裁判事を指名した。彼女が就任すれば最高裁判事の構成はリベラル派3人、保守派6人となる。ここまで司法の独立を軽んじるとは。保身のためにそれをするとは。

 もっとも、こういう人は他にもいる。その一人が安倍晋三前首相だ。彼は、自分にとって都合のいい検察官の定年延長を目論んで、「検察庁法改正案」の国会ごり押し通過を試みた。検察の独立性を踏みにじろうとした。幸い、世論の厳しい非難を浴びて見送りになった。だが、検察をも私物化せんとする不心得には、目を覆いたくなる。

 不心得者がもう一人いる。ボリス・ジョンソン英首相だ。彼は、目下、イギリスのEU離脱、すなわち「ブレグジット」交渉のさなかにいる。離脱条件に関しては、概ね合意が成立した。これからは、離婚後のお付き合いの形に関する協議に入る。

 そのはずだった。ところが、ここに来て、ジョンソン首相は新たな国内法の導入によって、離脱合意を事実上反故にしようとしている。国際協定の定めるところを、国内法によって帳消しにしようというのである。こんな不義理はない。もはや、英国とは誰も何事についても約束を交わそうとしないだろう。

 昨年8月5日号の本欄で、筆者は上記の3人を「戦後最悪トリオ」と命名した。なかなかのセンスだ。

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

AERA 2020年10月12日号