「僕は『結果が出ないとスケートは楽しくない』ってずっと思っていたんです。けど、あの結果なのに、僕はまた次の試合に出たい。『スケートが好きなんだな』っていう自分の気持ちを確かめられた」

 フランス杯後はスイスに渡り、トリノ五輪銀メダリストのステファン・ランビエルの指導を受けた。特別な練習はなくとも、滑ることが楽しかったという。

「あれだけ失敗すると、自分の背負っていたものを下ろせたような気がして。失敗を恐れる気持ちが減って、良い練習ができるようになりました」

 コーチ不在の影響も改めて感じたという。

「責任を押しつけていたつもりはなかったけど、自然と、分かち合っていたんだなって」

 迎えたロシア杯、リンク脇にはランビエルの姿があった。フリーでは冒頭の4回転サルコーで派手に転倒し、左の靴の中で足の位置がずれるアクシデントが起きた。結果、直後の連続ジャンプは回避せざるを得ず、演技終盤、前半で跳べなかった4回転トーループを強引にねじ込んだが、転倒。それでも、演技後の宇野は楽しそうだった。

「やっちゃった」

 ロシア杯の順位は大きな問題ではないだろう。滑ることの喜びを取り戻したことにこそ、意味がある。フランス杯のような涙も、モチベーションが揺らぐことも、もうない。

「今は、練習を早くやりたい」

 いったん帰国した後、再びスイスに渡ってランビエルの指導を受けるという。視線の先は全日本選手権。宇野がまた笑う。

「フランス大会のボロボロがあってよかった」

 挫折を知って、アスリートは強くなる。復活劇が始まる。(朝日新聞スポーツ部・吉永岳央)

AERA 2019年12月2日号