「一方に対して服従しなきゃいけなかったり、物を言うことが怖かったりという状況の場合です。虐待、もっと進んで子どもを殺してしまう家族は、再婚かそうでないかに限らず、そういう『均衡』が崩れている家族である場合が多いと言えます」

 家族の中の均衡。東京国際大学教授で精神分析に詳しい妙木浩之さんも、親子関係の問題が起きる前提として、「夫婦の関係」を挙げる。

「再婚家庭なら、子どもが新しい父親をどう位置づけるかは、まずは『母親が義理の父親をどう捉えているか』に大きく影響を受ける。逆に義理の母親の場合は父親による。その中で、義理の親の位置づけを家族全体で作っていくしかないんです」

 夫婦が大事なのは、どの家庭でも同じだ。ただ、母子家庭に新しい父親が入る場合、こんな心理が働くケースもあると、前出の吉田さんは経験から語る。

「『これまで母と子だったので子どもが言うことを聞かない。再婚後は子どもを厳しく育てたい』と、再婚した男性にしっかりとしつけを求めるケースがあるのではと感じています」

 その意向に男性が応じ、しつけの度を超すことがある。今回の事件がどうだったかはわからない。ただ吉田さんは指摘する。

「つまり、ジェンダーの問題です。父親は強くなければ、という意識が、父にも母にも働いているケースがある。その結果、父親がしつけの中で感情のコントロールができないまま、子どもに暴力をふるうことがある」

 昨年3月には、東京都目黒区で、義理の父親が5歳の女の子を虐待の末に死なせた事件があった。もちろん、うまくいっているケースは多くある。ただ、事件からわかるのは、「親」になるのは難しいということだ。出産の際に両親が学ぶ場があるように、再婚の際にも、子どもとの付き合い方を学ぶ場を設けるなど、できることはまだある、と吉田さん。

「『事件を起こした親はけしからん』で終わっちゃったら何にもならないんです」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2019年10月7日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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