現在ではジンに代わりSNSが世界規模でのフェミニズムの発信を担っている。前出の野中さんはこう指摘する。

「かつてはマスメディアを通さないと多くの人に意見を届けられませんでしたが、いまではネットで個人と個人がつながるようになった。近年フェミニズムが復活しているように見えるとすれば、ネットでの個人の発信が可視化され、共有できるようになったことが大きいと思います」

 パンク文化にもルーツがある、大資本に依拠せず何でも自分たちでやろうというDIY精神と、ジンやSNSによる草の根的共感の広がりは、マーケティング的に消費されない女性たちの文化を形成していった。

 前出の「THE M/ALL」の実行委員の一員でもあるアーティストのsuper‐KIKIさん(35)は、社会運動に参加しながらシルクスクリーンやステンシルといったDIYツールを使ったメッセージTシャツ、グッズを制作している。

「私の作ったものを身にまとってもらうことで表現の自由を奪われている人たちの解放を私の道具でサポートしながら、その自由を奪っている背景を一緒に打破したいという意識があります」

●キム・ジヨン異例のヒット、フェミニストの笑いとは

 ファッションやアートには、生まれ持った属性や社会からかけられた呪いを打ち砕く力があると考えるsuper‐KIKIさんは、最近「セルフポートレイト」という作品群をインスタグラムで発表しはじめた。ドラァグクイーンの文化に影響を受けているというsuper‐KIKIさん自身が、さまざまなイメージのメイクやコスチュームを身にまとい自撮りした作品だ。フェミニズムアートの文脈を踏まえると同時に、極端に加工して盛っていく今の時代のセルフィーの文化が、女の子たちが男尊女卑の世の中を生き抜くための手段であるかのように感じていると言う。

 今年は出版界でもフェミニズムの動きがあった。韓国のフェミニズム小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が翻訳書として異例のベストセラーとなり文芸誌「文藝」の「韓国・フェミニズム・日本」特集(19年秋季号)が3刷となるなど話題になった。「文藝」編集長の坂上(さかのうえ)陽子さんは「この号は書店店頭よりもSNSから先に火がついた」と語るが、フェミニズム出版社、エトセトラブックスを18年末に設立した松尾亜紀子さん(41)もSNSの効用を語る。

「海外でもそうですが、日本では特にフェミニズムとSNSとの親和性が高い。リアルタイムでとても近い形で読者の声が返ってくることが多く、ここ数年どんどんフェミニズムが求められているという手ごたえがありました」

 フェミニズムの本を出版する版元はたくさんあるが、エトセトラブックスが画期的なのは「フェミニズム出版社」と言い切ったことだろう。

「昨年発覚した東京医大の入試差別の問題が大きかったです。日本の女性差別がここまで根深く、学問という一番平等でなければならない場所で行われていたことに衝撃を受けました。あの件がなければフェミニズム出版社とまでは謳わなかったかもしれない。言わないと性差別が是正されない。また、言い切ってしまうことで弊社から出る本は全部フェミニズムの本と認識していただける。一つの読み筋というか、読者へのガイドになると思いました」

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