現在雑誌「エトセトラ」第2号を11月刊行予定で準備中だ。作家の柚木麻子さんと山内マリコさんの責任編集で田嶋陽子さんの特集だという。

 都内某所。インディーズで活動するフェミニスト・コメディー・ユニット「ハッカパイプス」のライブでは、スタンドマイクを前にボケのあきおさんとツッコミのさいとうさんが、女性として生きる中で直面する理不尽な「あるある」を話すと、自在にツッコみ、観客席は爆笑に包まれた。

「もともとコメディーが好きなのですが、日本にはセクシズムフリーの笑いがほぼ存在しない。いまだに女性やマイノリティーを侮辱するような笑いの表現があり、いじめとしか言えないものが“いじり”として横行している。安心して笑える場がほしい、と思いました」(あきおさん)

 ハッカパイプスのネタは「フェミニストの友だちと話している時も爆誕しがち」(あきおさん)で、「いろいろな経験談がフェミニストたちから集まってくるので、それをネタに昇華する」(さいとうさん)、いわば「集合知」なのだという。

 視点をずらすことで新たな認識を得ることがコメディーの一つの効用だとすれば、自明とされた性別役割分業を問い直すフェミニズムとはむしろ相性がよいと言える。笑いでつながる連帯感は、癒やしの効果もある。

「こんなことネタにでもしないとやってられないということが多いので、ネタにすることでわれわれも救われている。ネタに昇華してみんなと共有し、私たちも癒やされるしみんなも癒やされる。それがコメディーのいいところです」(さいとうさん)

●社会からこぼれ落ちる人も一緒に救われるための思想

 冒頭に「いけてる子は全員フェミニスト」という言葉を引いたが、フェミニズムは「いけてる子」だけのものではない。「セレブのフェミニスト宣言」について、前出の野中さんもこう語る。

「多くのフェミニストが表に出ることによって、フェミニズムは一枚岩ではなくいろいろな人がいるのだと知ってもらうことに意味があるし、ポジティブなイメージを広げる効果はあると思います。ただ、エリート女性だけではなく、そこからこぼれ落ちてしまう人たちも一緒に救われるための思想として、フェミニズムが広がっていくことが大切だと思います」

 文筆家の五所純子さん(39)は、覚醒剤から向精神薬まで、薬物と共にある女性たちの日常を描く「ドラッグ・フェミニズム」を「サイゾー」誌で連載中だ。表面化されにくい女性の声を拾い、取材対象を凝視し、そのきれぎれの言葉に耳を澄ましながら書いている。

「この連載は旧来の理論的なフェミニズムだけでなく、現行のクールな文化としてのフェミニズムや、女性活躍といった政府主導型のフェミニズムからも取りこぼされる存在や領域が射程にあると思います」(五所さん)

 出来事や状況は特殊に見えるかもしれないが、そこには何らかの普遍性、社会構造的に女性がこうむる経験があるのではないか、と五所さんは語る。前出のsuper‐KIKIさんも、こう語っていた。

「女性の中にもグラデーションがあってフェミニズムを自分の問題として捉えられない人もいると思いますが、本来フェミニズムはすべての性の平等を掲げるものだと思います」

(編集部・小柳暁子)

AERA 2019年9月30日号