■コオロギの耳とヒトの耳は似ていた

 続いて今回の研究成果であるコオロギの耳のしくみについて説明しよう。

 フタホシコオロギやエンマコオロギの耳は前脚にあり、外から見える鼓膜の内側には、リンパ液で満たされたうすい膜の袋がある。袋の中には、人のうずまき管と同じように感覚細胞が整然と並んでいる。音が鼓膜をふるわせると、内側にある硬いコアが振動し、リンパ液の流れを通して感覚細胞に音を伝える。このとき、コアに近い感覚細胞は高音を、遠い感覚細胞は低音を感じ取る。そして、それぞれの感覚細胞が感じ取った音が、より内側にある神経を通して脳に伝わって、コオロギは音の高低を聞き分けている。

 このしくみは、ヒトの耳のしくみとそっくりだ。人もコオロギも、音を液体の流れに置き換えて捉えている。コオロギの耳の感覚細胞の列はわずか0・2ミリメートルほど。この小さな耳が、ヒトの耳と同じようなしくみを持っているとは! 身近な自然にも驚きがあふれているね。

 初夏のころは、コオロギはまだ幼虫で鳴き声も出さないけれど、8月中旬ごろには成虫になり鳴き始める。つかまえて前脚の耳をルーペでじっくり観察してみよう。(サイエンスライター・上浪春海)

※リンパ液=血管を流れる血液とは違い、体内をしみ通るように流れる液体。

※月刊ジュニアエラ 2019年6月号より

ジュニアエラ 2019年 06 月号 [雑誌]

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上浪春海
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