写真:写真部・小原雄輝、イラスト:小迎裕美子
写真:写真部・小原雄輝、イラスト:小迎裕美子
日本人の「現金好き」は将来も変わらない?(AERA 2018年11月26日号より)
日本人の「現金好き」は将来も変わらない?(AERA 2018年11月26日号より)

 キャッシュレス生活が浸透しつつある昨今。時流に乗るひともいれば、利便性を頭では理解していても、踏み切れない現金派の人たちもいる。両者の主張とは?

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大事な人を亡くし、お通夜や葬儀を前に、

「LINEの『香典グループ』にお金を送っておいたから」

 なんてメッセージが届いたら、「この人、死者を弔う気がないな」と思うに違いない。最近聞いた笑えない笑い話だ。

 意識の高い自称イケてる人ならば、香典もキャッシュレスで構わないのかもしれないが、多くの人は現金特有のメリットや重みを痛感している。よほどのお金持ちでもない限り、「現金がある」という安心感は手放したくない。

 一方で現金の総本山、銀行の支店で働く40代の女性は、昔より少なくなったとはいえ毎日うんざりするほど現金を見る中で、キャッシュレス派に転向した。きっかけは同僚が持つ「ブタ財布」を見てびっくりした翌日、熱を出して寝込んだことだという。「ブタ財布」とは、レシートやポイントカードなどを詰め込んで膨れ上がった状態の財布のことだ。少々言いがかりに聞こえるが、「財布が、あの人の人生のすべてを背負わされている。窮屈でかわいそう」と思い続けたことで体調を崩したのだと信じている。それからというもの、財布のダイエットにいそしむ毎日だ。

 当然、現金派との会話はかみ合わない。特に親友との間では冗談半分ではあるが、きつい言葉の応酬になる。

「コツコツためたポイントを全部マイルに換算して、ニューヨークまでタダでビジネスクラスよ」

「あんた、それだけ稼いでいるのに貧乏くさい」

「クレカの使用額の1%は寄付しているわよ」

「クレカ会社が寄付しているだけじゃないの? 知らないけど。私はちゃんと自分の財布から出した現金を寄付しているよ」

 キャッシュレスを歓迎する都内在住の別の30代男性の言い分はこうである。

「コンビニやチェーン店は人手不足なんだから、現金を扱わない方がマンパワーもコストも削減できる。私たちが現金を使わなくなることで世の中の無駄が省けるなら、どんどん非現金にすればいい。ロックのかかるスマホなら落としても財布より被害が少ない。安全面や効率性を考えれば断然キャッシュレス」

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