「二度とこいつにパスポートを渡してはいけないという人もいれば、また行ってくださいという人もいるので」と話す安田さん。再び紛争地に出向くかは、決められずにいる/7日、東京都内で(撮影/写真部・小山幸佑)
「二度とこいつにパスポートを渡してはいけないという人もいれば、また行ってくださいという人もいるので」と話す安田さん。再び紛争地に出向くかは、決められずにいる/7日、東京都内で(撮影/写真部・小山幸佑)

 3年4カ月もの拘束から解放されたジャーナリストの安田純平さん。しかし、帰ってきた日本では「自己責任論」が飛び交っていた。自身はこれについてどう感じているのか、安田さんに話を聞いた。

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「これだけ騒ぎになれば何を言われてもしょうがないんですけどね」

「自己責任論というのは、当事者が何か言うと非常に誤解されやすいので……。自分で言うのは、言い訳みたいに聞こえてしまうので、非常に難しいんですけど……」

 安田純平さん(44)は2004年にも、イラク国内で取材中に現地の武装勢力に拘束された。このときは3日後に解放されたが、日本国内では「自己責任」を振りかざした批判が渦巻いた。そして今回もまた、同様の光景が展開している。

「自己責任論」についてどう考えているのか。記者の質問に、安田さんは時に目を伏せ、口を固く結びながら、言葉を絞り出すように話し始めた。

「本人が自己責任でやることでも、それとは別に、邦人保護など行政が対応しなければいけない部分が必ず発生します。すべて完全に自分だけの責任で、ということはまずあり得ない」

 安田さんは続けた。

「そうなると、『自己責任なんてものは無理なので、やめなさい』という話になるわけです。要するに政府の許可がある場所にしか行ってはいけないという話になってきます。取材をしてよい場所、いけない場所を政府が決めるという大変な話に、突き詰めるとなっていっちゃうわけです」

 安田さんが懸念するのは、自己責任論が高まり、暗黙のうちにジャーナリストの活動への制約や自粛が促されることだ。

「04年のイラク人質事件以降、日本人で紛争地に入る若い人はあまりいなくなりました。現場が危ないからという怖さよりも、変わった行動をして日本社会でたたかれるのが怖いので行かないという人はたぶん多くなっていると感じます」

 そして、静かな声のままこう断言した。

「紛争地の現場取材は、絶対に必要なんです。そういう場所にあえて行く人たちというのは、やっぱりちょっと変わった人と捉えられるのかなと。でも、変わった人たちが変わったことをやった結果、見えてくることがあるんです」

 見えてくること、とは何なのだろうか。

「これを自分で言うと、開き直っているような感じに受け止められるので……」

 安田さんは言葉を継ぐのをためらい、しばらく沈黙した。そして、一気に思いを吐き出すように続けた。

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ネット上の批判をうけ、安田さんの近況は…