帰り。満足感を身体にたたえつつ車に乗り込む、そしてまたフェリーの蓋が閉じられた。「島よ、そしてフェスよ、ありがとう……」

 フェリーの出発を待ちながら、運転手のO、そして妻と話をしていた。「結局最後までヘルメット被ってる人は見なかったな」なんて感じに。すると目の端に鋭い光が移動するのが見えた。

「ん?」

 フェリーの蓋の間から、その光が素早く移動していく。目が焼けるぐらいの強い光だ。

「何だ! あの光は!?」

 思わず声に出してしまう。UFOとはこんなタイミングで見るものなのかと思ったのだし、あるいは、太陽がすごいスピードで動きだしたとも。「地球が終わる時ってこんなに穏やかなのか……」

「フェリーが動いてんだよ、パパ」

 妻に冷静に言われてようやく気がついた。動いていたのは我々のほう。フェリーが出航してたのを気づかずにいただけだった。

 地動説まで揺るがしかねない神秘体験だと思ったのに。

 家族はひとしきり私の天然ボケを笑った。私も合わせて笑った。しかしこれはきっと“ギターの時点”から決まっていたことだと。つまり全てはこの島が引き寄せた「神秘体験」だったのだ。誰がなんと言おうと。

 決して老いとかではない。

AERA 2018年8月6日号

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マキタスポーツ

マキタスポーツ

マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。子供4人。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである。』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。近刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)。『決定版 一億総ツッコミ時代』(講談社文庫)発売中。

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