サルの体の細胞から遺伝的に同じ情報を持つ「クローン」2匹を誕生させることに成功したというニュースが、世界に衝撃を与えた。クローン技術への期待の半面、懸念されている課題とは何か、考えてみよう。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された記事を紹介する。

受精卵クローンと体細胞クローンのちがい(図版/倉本るみ、ジュニアエラ 5月号より)
受精卵クローンと体細胞クローンのちがい(図版/倉本るみ、ジュニアエラ 5月号より)

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 クローンとは、「遺伝的に同じ」という意味をもつ生物学の用語。もともとはギリシャ語の「小枝」という言葉が語源とされる。

 そもそも、「遺伝」とは両親から子どもに性質などが伝わること。ヒトや動物の体の中には姿形や性質を決める設計図(遺伝子)があって、子どもは親の遺伝子を半分ずつ受け継いで生まれる。親子が似ているのはこのためだが、子どもがどちらかの親とまったく同じ性質になることはない。

 また、同じ親から生まれたきょうだいの遺伝子も、普通は同じではない。両親それぞれがもつ遺伝情報は膨大なので、どの部分がどちらから受け継がれるか、組み合わせが無数にあるからだ。

 ただ、きょうだい同士がまったく同じ遺伝子をもつ特別なケースがある。「一卵性双生児」という、見た目がそっくりな双子だ。両親の遺伝子を受け継いだ「受精卵」が何かの拍子に分裂して、2人が誕生したためだ。このきょうだい同士はクローンともいえる。これを人工的に行ってつくったクローンを「受精卵クローン」という。

 クローンにはもう一つ、「体細胞クローン」がある。これは、皮膚や血液など体の細胞(体細胞)から、遺伝情報が入った「核」を取り出し、核を取り除いておいた別の未受精卵に移植してつくる方法だ。この場合、親とまったく同じコピーをたくさんつくることができる。

■霊長類での体細胞クローン、初成功

 1996年、この技術によってクローン羊の「ドリー」がイギリスで誕生した。哺乳類で体細胞クローンをつくることは無理だと考えられていたが、世界初の成果として、驚きをもって報道された。その後、牛、豚、猫、犬などでも誕生したが、今年1月、中国科学院の研究チームがカニクイザルで成功。ヒトを含む霊長類では初めての成果だ。

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佐藤建仁
佐藤建仁

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