研究チームはまず、カニクイザルの胎児(生まれる前の赤ちゃん)の体の細胞から遺伝情報が入った核を取り出し、あらかじめ核を抜いた別のメスの未受精卵に移植。成長を促す特殊な処理を施して、代理母となる21匹のメスの子宮に移植したところ、6匹が妊娠し、そのうち2匹が生まれた。2匹はメスで、いずれも健康。中国などを意味する「中華」にちなんで、「中中」「華華」と名づけられた。

 クローン研究の目的とは何か。中国の研究チームは、病気の解明や治療法の研究などに役立つと主張している。医薬品を開発する際に、マウスなどの動物に候補となる薬品を与えて効果を調べる方法があるが、よりヒトに近いサルをクローン技術でたくさんつくって比較できれば、信頼性の高い結果が得られると考えられるためだ。

 また、畜産業への貢献も期待される。たとえば、優れた肉質を持つ牛から体細胞クローンをつくることで、おいしい牛肉を大量生産できるようになるかもしれない。ほかにも、マンモスなど絶滅動物を復活させる方法としても考えられている。

■クローン人間も可能になる?

 ただ、この技術には一つの大きな懸念がある。クローン羊のドリー誕生後、次はクローン人間がつくられるのではと不安が広がった。一人の体細胞から同じ人間をクローンで大量につくりだすことができるようになれば、人間の尊厳が脅かされかねないとして、国連は禁止宣言を採択。日本でも2001年に「クローン技術規制法」が施行され、クローン人間をつくることを禁じている。

 今回、クローンサルが誕生した技術は、すぐにヒトに応用できるわけではない。ただ、サルで成功したことで一歩近づいたとはいえる。「生命倫理」が専門の北海道大学の石井哲也教授は、「子どもを亡くした親がクローンでの復活を願うようになるなど、社会全体への影響があるかもしれない」と話している。クローン技術を社会のなかでどのように使っていくべきなのか、改めて議論が必要だ。

【主なできごと】
1996年 体細胞クローン羊「ドリー」誕生
97年 体細胞クローンマウス誕生
98年 日本で体細胞クローン牛誕生
2001年 日本でクローン人間づくりを禁止する「クローン技術規制法」が施行される
18年 中国で「体細胞クローンサル誕生」と発表

※月刊ジュニアエラ 2018年5月号より

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佐藤建仁
佐藤建仁

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