国家存続に向けて全権を預かったのがムハンマド皇太子。16年に発表した改革指針「ビジョン2030」では、石油に頼らない経済への移行を宣言。電気や水道、ガソリンなど政府が補助金で安く抑えてきた公共料金の値上げを始め、国民に「自ら稼ぐ」ことを求めた。今年3月、サルマン国王が1千人超のスタッフを連れて来日したのは記憶に新しいが、その目的は投資を呼び込むためのサウジなりの「営業」だ。

 改革の矛先は宗教界にも向けられた。政府は、「欧米文化」として宗教指導者から敵視されていた映画や音楽産業の開放を進める「娯楽庁」を創設するとともに、国内の「風紀の乱れ」を取り締まる悪名高い宗教警察の権限を縮小。今年9月、世界で唯一禁止されていた女性による車の運転を来年解禁するとの国王令を出した。「卵巣に影響する」などと独自の主張を続けていた宗教界は形無しだ。

 そして「第3の矢」とも言えるのが王族の利権追及だ。ムハンマド皇太子は16年、王族の利害が複雑に絡む国営石油会社サウジアラムコの経営を、新規株式公開(IPO)により透明化する方針を表明。今年5月には「汚職にかかわった人間は誰も見逃さない」と利権の闇に切り込む姿勢をアピールした。

 働かない国民、極度に保守的な宗教界、そして利権に慣れきった王族。サウジをサウジたらしめてきた3者に「三方一両損」を求め、経済的に自立する。それがムハンマド皇太子の描く「普通の国」への道筋だ。

 ただ、劇薬に頼り続ける皇太子の手法を不安視する声もある。特に外交面で皇太子は、イランへの圧力強化や隣国イエメンへの軍事介入、カタールとの断交など、長老たちが巧みに避けてきた対立の先鋭化を好んで選んでいるようにみえる。改革の恩恵を受けられない国民が増えれば、過激思想や宗派対立に、つけいる隙を与えることにもなりかねない。(朝日新聞ドバイ支局長・渡辺淳基)

AERA 2017年11月27日号