今年3月、来日したサルマン国王。サウジ国内に経済特区を設けることなどを盛り込んだ日本との経済協力に合意した (c)朝日新聞社
今年3月、来日したサルマン国王。サウジ国内に経済特区を設けることなどを盛り込んだ日本との経済協力に合意した (c)朝日新聞社
中央のビルがキングダムタワー。発展の象徴とみられてきた。所有する企業のオーナーだった王子も今回逮捕された(撮影/朝日新聞ドバイ支局長・渡辺淳基)
中央のビルがキングダムタワー。発展の象徴とみられてきた。所有する企業のオーナーだった王子も今回逮捕された(撮影/朝日新聞ドバイ支局長・渡辺淳基)

 働かない国民、極度に保守的な宗教界、利権に慣れきった王族。石油輸出に頼れない未来が見えたサウジアラビアで、剛腕皇太子がこの3者に切り込んだ。

【写真】発展の象徴とみられてきたキングダムタワーはこちら

 栓抜き形の奇妙なビルが、砂漠の乾いた日差しを反射する。サウジアラビアの首都リヤド。中心にそびえる高さ302メートル、99階建ての「キングダムタワー」は2002年に完成した。

 開発したのは、投資会社キングダム・ホールディング。同国の著名投資家で富豪のアルワリード・ビン・タラル王子が所有する企業だ。五つ星ホテルや高級ブティックが入るビルは、米国の投資家にちなんで「アラビアのバフェット」の異名を持つ王子とともに、石油で潤うサウジ経済の象徴とみられてきた。

 その「王国」に11月4日、衝撃が走った。ムハンマド皇太子(32)が率いる新組織「反腐敗最高委員会」が、有力王族11人を含む49人を汚職などの疑いで逮捕。その中にアルワリード王子が含まれると報道されたのだ。

 サウジで異変が起きている。建国の父アブドルアジズ初代国王の死去後、息子たちが年功序列で玉座についた長老政治の時代は終わり、サルマン国王は今年6月、自身の七男ムハンマド皇太子を「第3世代」で初めての国王にすると宣言した。王族が数千人規模に達するなか、今回の一斉逮捕は、次世代への権力継承を確実にするためだと見る向きは多い。

 15年1月に即位したサルマン国王は同4月、アブドラ前国王が指名したムクリン皇太子を解任すると、今年6月にはムハンマド・ナエフ皇太子も解任、内相のポストからも外した。アブドラ前国王の息子で国家警備隊相のミテブ王子も今回、汚職の疑いで逮捕。国防相など政府の要職を独占するムハンマド皇太子に対抗し得る勢力は、これでほぼ完全に排除された。

「聖域」にメスを入れた若き皇太子の剛腕に、国民の多くは称賛を送るが、その基盤は意外と脆弱だ。英王立国際問題研究所は11年、サウジが38年に「石油輸入国になる」との衝撃的な報告書を発表した。30年あまりで3倍に膨れあがった人口の急増が続けば、国家歳入の8割超を依存する輸出原油を、すべて国内消費に回さざるを得なくなるとの計算からだ。

次のページ