「『京都』というコミュニティーは一つしかない感じ」。そう話すのは、米国シリコンバレーに本社を持ち日本での拠点を京都に置くウェブサービス開発会社「NOTA」の洛西一周CEO(35)。世界で1千万人が利用するスクリーンショットの共有ツール「Gyazo」を運用している少数精鋭企業だが、日本での出発点は町家スタジオ内のシェアオフィス。タナカさんと企画した交流会や人の縁で、学生や技術者、投資家らと関係を築き成長につながったという。

 洛西さんが京都に魅せられている理由の一つに「距離の近さ」がある。まちが狭く、職住接近で仕事と私生活がまざり合う。「すごい仕事をする人と普通に道端で会い、飲み屋で隣に座り、子どもがその辺で走る。人間的な面が見え、東京では遠く感じる人も近くなり、すごくなくなる」(洛西さん)。学生に銭湯でシリコンバレーの話をし、町家の畳で雑魚寝。互いを多面的に知り、仕事で一緒にやれることを確認する。

「起業文化の根底にあるのは、『一見さんお断り』」とタナカさんは話す。質が高くても人間関係がないと仕事がこない。「その代わり、人との関係性で起業の段階を飛び越えてしまえるのも京都」。究極は、「京都という同じコミュニティーで生きる人」同士なのだ。その文化は事業内容や企業規模の大小問わず通底する。「心臓シミュレーター」の開発を手がけ、グローバル・ニッチ・トップ企業を目指す、「クロスエフェクト」の代表取締役・竹田正俊さん(44)も、縁の力を実感する。試作ビジネスで起業した20代の頃、新聞で企業連携「京都試作ネット」の誕生を知り扉をたたいた。だが入会できたのは4年後。年の離れた先輩に「勉強せい」と育てられ、息子のように可愛がられた。その過程で共有したのは金儲け術ではない。「いつまでも京都でものづくりをやるために仕掛けをつくる。先人が残してくれた誇れるまちを未来に引き継ぐ」との思い。「恩送り」の精神だった。「お前の会社だけ儲かっても仕方ない。京都で生きてるんやから、地元と一緒に成長するんやと言われましてね」

 京都には経済が回る文化が根付いていると、竹田さんは言う。信頼を財産にして次につなぐ「一見さんお断り」スタイル。開業やのれん分けで師匠や隣人に迷惑をかけぬようあえて「多様」を選び、ニッチトップを狙う共存の知恵。時代を超え受け継がれる文化から垣間見えるのは、「京都コミュニティー」で大きく一つにつながる起業家らの姿だ。(ライター 小坂綾子)

AERA 2017年11月20日号