友人の数学の達人に依頼して前夜つくってもらった素数乱数表(左上)は雨で使用を断念。6本の木のマドラーに2、3、5、7、11、13と書いて素数くじを作り、サイコロ代わりにして曲がる角を決めた(撮影/楠本涼)
友人の数学の達人に依頼して前夜つくってもらった素数乱数表(左上)は雨で使用を断念。6本の木のマドラーに2、3、5、7、11、13と書いて素数くじを作り、サイコロ代わりにして曲がる角を決めた(撮影/楠本涼)
ぶらり不便益散歩(AERA 2017年11月20日号より)
ぶらり不便益散歩(AERA 2017年11月20日号より)

 京都大学の川上浩司特定教授が提唱する「不便益」が注目されている。効率ばかりを求めず、手間を惜しまないことで得られる豊かさ。わかるような、わからないような……。ここはひとつ、体感してみればいいのでは。そうだ、京都行こう。

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 今日だけは、効率や利便性優先主義と決別する。集まったのは東京育ちの文系記者と神戸在住の理系記者、京都在住のカメラマンの3人。鉛筆を倒して進む方角を決め、曲がる角は川上特定教授の研究から生まれた「素数ものさし」に敬意を表し素数とし、くじを引いて決める。各人、行動に制約もつけた。「スマホは見ない」(澤)、「英語しか話さない」(大越記者)、「レンズは単焦点1本だけ」(楠本カメラマン)。

 というわけで、四条大橋から不便益散歩、いざスタートだ! 天候は雨。紙製の方位表も素数乱数表も出せないから、橋の下に移動する。不便である。「雨の中歩くこと自体、不便ですから。幸先いいですね」と強がれば、英検3級の大越記者も「イグザクトリー」と飛ばしてくる。

 最初の素数は5。花見小路通はアーケードが半端に延び、少し進んでは傘を開いたり畳んだりせわしない。面倒くさい。早送りして次の角に着きたい。八坂神社が見えてきて、気持ちが華やぐ。が、手前で曲がる。白川南通を人力車の一団が駆けていく。この雨で撤収するらしい。

 通りの脇に、色あせた道案内があった。筆書きの文字はまだいいが、肝心の地図が判然としない。不便だ。古都の街角に佇み、風情がある。これぞ不便益だと、一行大いに盛り上がる。

 川沿いを歩き、レトロな古川町商店街に入った。金物屋をのぞき、総菜屋のおばさんやフランス人アーティストと話し、工房でガリ版を刷らせてもらう。

 掴めてきた。不便益と昭和は極めて親和性が高いのでは? 流暢な英語を話し、総菜屋のおばさんと仲良くなる楠本カメラマンに、京都人と不便益の親和性も高いのではと疑いだす。
 

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