13時過ぎ、平安神宮前に到着。障害を魅力に変えるバリアフリーファッションショー「バリコレ」(NHK)の収録に遭遇、感銘を受ける。

 同時に途方に暮れる。京都の雅でイケズな精神性に打ちのめされようと洛中のど真ん中にやってきたのに、己のさもしさを知るばかりだ。引いた素数は13。

 だだっ広い平安神宮周辺を13ブロック歩くと思うとめまいがする。「タクシー」と言葉が口をついて出て、右手を挙げていた。

 タクシーを降りると、天罰か、道行はさらに混迷を極めた。圧倒的な速度を経験したせいか、歩みがやけに鈍く感じる。黙々と歩き続ける我々、降りしきる雨、傘を差さず濡れていく楠本カメラマン……。我々はいったい何をやっているのか。

「チェンジ・ザ・ルール」

 大越記者が切り出した。

「不便が目的化してはいけない。くじは引くけど、好きな角で曲がりましょう」

 既に英語じゃないが、英雄然としたカッコよさに心が震える。遅い昼食を取り、まだまだ歩く。この3人は、お茶をしようとか休憩しようとか惰弱な発想が一切ない。もはや修行だ。いつの間にか3人ともある場所を目指していた。錦市場の中に吸い込まれていく。乾物店のおじさんが外国人観光客を前に朗々とドイツ語で歌い、こう言った。

「日曜だけ第九を歌ってるんです。これがホントの日曜大工」

 そのとおり! 我々も何かをやりとげた気がする。
 
16時過ぎ、脇道の赤提灯で乾杯。踏破距離8.6キロ、散歩時間6時間弱。杯を重ねると、道中の思い出がよみがえる。

「お酒って、不便益そのものですねえ」「目的もゴールもないって新鮮でしたね」と口々に語らう。我々の間にも不思議な絆が芽生えた気がする。

 ふとスマホを見ると、デスクからメールを受信。「大ニュース! 不便益の神髄はアートだって! 3人でどこかのトリエンナーレに……」、そこまで読んで、私は画面をそっと閉じた。(編集部・澤志保)

週刊朝日  2017年11月24日号より抜粋