●半ば“身内”への捜査

 それもそうだろう。既に補助金は全額返還されている。国が審査して交付した補助金を、国の命令で返還しているのだ。郷原氏だけでなく、起訴することも困難と指摘する専門家も多い。

 一方で、一連の疑惑の端緒になった、近畿財務局職員がごみ撤去費用を過大に見積もり約8億円も値引きして国有地を払い下げた事件の「本丸」についての捜査は進んでいるのだろうか。

「籠池夫妻をどうするかに汲々として、とてもその方向に進んでいるとは思えない。背任罪は、職員が自己または第三者の利益を図る故意性の立証が必要。忖度(そんたく)みたいなあいまいな話では到底刑事事件的な着地は無理です」(郷原氏)

『国策捜査』などの著書があるジャーナリストの青木理氏はさらに検察サイドの「忖度」についてこう言及する。

「補助金不正受給だけで終わるなら、大阪府警捜査2課が担当すれば十分な事件。証拠改竄事件で信用が地に落ちたとはいえ、地検特捜部が乗り出したのであれば、財務省や近畿財務局に家宅捜索ぐらいはかけないと存在意義にもかかわる。しかし、地検の事件の端緒は従来国税からもたらされることも多く、半ば身内でもある相手への捜査には心理的障壁は高い」

 現在の国税庁長官は、財務省理財局長時代に森友学園関連の記録書類を「全て廃棄」したと国会答弁した佐川宣寿氏だ。「一強内閣」の名をほしいままにした安倍内閣の支持率は森友、加計の両学園問題で失墜し、国民は「受け皿」探しに彷徨(さまよ)っている。砂上の楼閣を支えた忖度官僚の頂に、かつて最強の捜査機関とうたわれた地検特捜がどう臨むのか。

(編集部・大平誠)

AERA 2017年8月14-21日号