厳しい国家財政状況の中で、「運営費交付金の削減が続くうえ、財務省への予算の満額要求がなかなか通らない」(文科省関係者)ようになってきているものの、これまでは大学の研究開発費は増額してきた。文科省科学技術・学術政策研究所によると、14年度の日本の大学部門の研究開発費は3.7兆円で00年度とくらべると実質1.3倍に伸びている。

 その一方で、期待されているほど研究成果は上がらず、論文数は、先進国中日本が唯一04年ごろから停滞し、この10年で世界2位から5位に、多数引用される重要度の高い論文数は5位から12位に転落した。前出の宮川教授は言う。

「任期付きといった不安定な研究者の身分、競争的資金といった期限付きで不安定な研究費の比重が増えたこと、研究費への応募書類や報告書の作成といった事務作業が増えたことが、研究者を圧迫して、研究費が増えても成果が上がらない原因になっています」

●過度な競争があだに

 過度な競争になっている競争的資金の増加は、研究者の時間も奪っている。同じく文科省科学技術・学術政策研究所によると、大学等教員の研究時間の比率は、02年の46.5%から、13年には35%に減った。競争的資金を獲得するために研究計画書を書いたとしても、7~8割は不採択になるのが現状。不採択になれば研究費は出ないので、研究計画を作っても研究成果につながらない。

 大隅さんとともに90年代からオートファジーの研究に取り組む東京大学の水島昇教授は言う。

「競争的資金でも、審査の際に研究の本質を見抜く『目利き』ができれば成果につながるはずですが、現実には簡単ではありません。特に初期のオートファジーのような基礎研究では難しい。少額でも研究を続けられる基盤的『ばらまき』の部分が必要ですが、限りある予算の枠でプロジェクト研究や競争的大型予算ばかりに寄りすぎています」

 競争的資金には、研究者が比較的自由に研究できる科研費のほかに、各省庁が「再生医療」や「省エネ」といった目的を明確にして公募をする政策目的のための研究費もある。後者では、事業化や医療応用がしやすく、「出口」が明確な「役に立つ」研究に適しているとされるが、基礎研究はやりにくい。

 これまでに多くの科研費を獲得し、『科研費 採択される3要素』を執筆した、名古屋市立大学の郡健二郎学長はこう嘆く。

「最近の医学部の学生は、ほとんどが基礎研究者にはなりません。そもそも、臨床医のほうが研究医よりも尊敬されるという社会が問題です」

 郡学長は医師であり研究者として40年以上にわたって大学を見てきた中で、最近、研究者に対する社会の評価が低くなり、それによって研究者志望も減っているのではと危惧する。

 実際、国内の博士課程進学者数は13年をピークに減少傾向だ。

 大学の研究の意義を見直す時期にあるようだ。

(編集部・長倉克枝)

AERA 2016年12月19日号