●研究費獲得は命綱
マウスを使って精神疾患の解明に取り組む藤田保健衛生大学の宮川剛教授の研究室では、多くの実験動物を飼育するなど、研究環境を維持するだけでもコストがかかっている。ところが一昨年のこと、継続して獲得していた外部の研究費がいったん途切れそうになった。
「研究室のスタッフ全員で科研費の研究計画書を書いて、合計17件申請をしました。研究費が途絶えると研究が途絶えてしまうので必死でした。申請書類を作るのに忙しく、研究どころではありませんでした」(宮川教授)
その結果、数件が採択されて、研究を持続することができた。科研費などの競争的資金の獲得は、今や研究者にとって研究の継続の命綱になっているのだ。
だが、この科研費の獲得も年々厳しくなっている。科研費の総額そのものは横ばいだが、12年度と16年度を比べると応募件数が年々増加しているため、採択率は28.2%から26.3%に下落し、一件当たりの配分額も241万円から214万円に減っているのだ。
任期付き雇用の若手教員や、研究成果を多く上げる教員が研究費の獲得に奔走する一方で、研究をしなくても安定したポストに居つづける教員もいる。ある私立大学理工学部の教授はこう話す。
「うちでは大学から支給される研究費が比較的豊富なので、学生の教育くらいなら科研費などの外部資金を取ってくる必要はありません。教授会では科研費をとってこない教員一覧の表が出てきますが、毎回とっていない先生もいますね。研究をしなくても教授で居つづけることはできるのです」
若手や、まじめに研究をしている人ほど割を食う不公平感があるのだ。
●職場ごとなくなる
宮川教授は、米国留学から帰国後の03年、京都大学でテニュアトラック助教授になった。テニュアトラックとは、任期付き雇用だが、数年間で成果を出して評価を受けると、任期なしの定年制雇用になるという仕組みだ。1年ごとに任期を更新する。
「私は研究成果をたくさん上げていたが、まわりを見ると(定年制の)教員でも僕よりも成果を上げていない人がたくさんいました」
ところがその後、所属していた組織は、予算がとれないとして解散になった。
「テニュアトラックのはずだったのに、テニュア(終身在職権)になる前に組織がなくなったのです。研究成果を出している私たちがクビになり、成果を出していない教員たちは(定年制なので)のんびりしている。これは理不尽だと思いましたね」
ここ10年以上、研究成果を加速するため、文科省は「選択と集中」として研究者の競争的環境をつくる政策を進めてきた。国立大などの運営費交付金を減らす一方で、政策目的志向の競争的資金を拡充してきた。