以前から、糸井さんの著書のファンだったという出口さん。この日初めての対談が実現した(撮影/今村拓馬)
<br />
以前から、糸井さんの著書のファンだったという出口さん。この日初めての対談が実現した(撮影/今村拓馬)

 コピーライターの糸井重里さんと、ライフネット生命の代表取締役会長兼CEOは同い年の66歳。ふたりが人生で大切なものについて語り合った。

* * *
糸井:ぼくは、20歳のころ、大学に通っている最中にデザイン会社に就職が決まってしまって、いきなり放し飼い。会社に行ったら、先輩が「自分は今日で辞めるから、あとよろしく」って。ぼくはコピーライター経験なんてゼロなのに、話が違うじゃないかと。

出口:なかなかできない経験ですね。でも、人間のベースは案外まじめ。糸井さんは、そんなときでもなんとかしようとしたんじゃないですか。

糸井:まず、誰かの役に立ちたいと考えますよね。たとえば子どもなんかは、お店屋さんごっこが大好きじゃないですか。自分を介して、モノや情報を媒介することに喜びを覚える。本能でしょうね。そのとき、儲かんなくてもいいからやれ、ではなく、稼ぎなさいと言うと、嬉々としてやる。

出口:インセンティブって大事ですよね。おいしいものを食べたい、デートをしたい。あるいは子どもを育てる。そのために稼ぐ。武士は食わねど高楊枝って、嘘だと思いますね。成り立たない。

糸井:同じことを矢沢永吉も言っていました。「人生金じゃない」って言っている人がいる。しかし、彼女ができた、結婚をした。そんな時でも、人は食うや食わずの生活を選ぶことができるのか。「それでも金じゃない」と言えるんだったら、貫け。言えないんだったら考えることがあるだろうと。彼は、そんなロジックでお金の話をしていました。つまり、衣食「楽」足りて、礼節を知るなんですよね。

出口:そう思います。

糸井:吉本隆明さんから聞いたことで、戦後、女性の間で石けんが奪い合いになったそうです。身ぎれいにすることが食に匹敵するぐらい、求められた。日産自動車のためにつくったコピーで、「くうねるあそぶ。」があります。落語の前座噺である「寿限無」に、「くうねるところにすむところ」があって、そこから発想を得たものです。ぼくは、「くうねる」に「あそぶ」を入れないと納得がいかなかったんです。いま、こういう時代ですから、「あそぶ」という言葉は反感も浴びちゃうんですよね。でも、それでいいのかなあ。

AERA  2014年12月29日―2015年1月5日合併号より抜粋