<直接お話を伺いにあがることはできないでしょうか。10分でもご都合のつく日時をご連絡いただければ>

 返信はなかった。思いは届かないのか、と残念だった。2カ月ほどしたある日、廊下で講師とばったり会った。

「教授にメールを出したんだって」

「はい。先生だけに責任があるとは思えません」

 講師は「ありがとう」と返し、苦しい胸の内を語った。

「ボクは処分を受け入れる。医局にいる医師の意識が変わるきっかけになればと思っている」

 胸が痛んだ。弱い立場の講師が犠牲になるのか、と。新聞や雑誌、インターネット上では、東大医学部の不正や疑惑が次々に報道され、話題になっていた。しかし、学内で説明はまったくない。

 講義後に決意を語った3日後、行動を起こした。東大・本郷キャンパス(東京都文京区)の本部棟玄関前。早朝からスーツ姿で立ち、出勤する総長の濱田純一を待ち構えた。「公開質問状」を手渡すためだ。A4用紙1枚にまとめた文面には、こうある。

「先生方から今の東大医学部の状況についてご説明が無ければ、信じたくないことも信じざるを得ないのであります。(中略)国民に信頼され得ると確信を持てる医学部に於いてこそ、将来患者さんに貢献できる医術を学べると信じております」

 結局、総長は現れなかった。

AERA  2014年8月18日号より抜粋