ヘブライ語版(上)と英語版(下)。のり子さんに関する情報をお持ちの方は駐日イスラエル大使館(TEL:03-3264-0392/Email:press@tokyo.mfa.gov.il)まで(撮影/写真部・植田真紗美)
ヘブライ語版(上)と英語版(下)。のり子さんに関する情報をお持ちの方は駐日イスラエル大使館(TEL:03-3264-0392/Email:press@tokyo.mfa.gov.il)まで(撮影/写真部・植田真紗美)

 イスラエルを訪れる日本人女性は必ず、彼の地の男性に「のり子さんを知ってる?」「もっともスイートな名前はのり子だろう!」と声をかけられるらしい。「のり子さん」とは、1950年代にイスラエルで出版された『エヴァ、のり子さんに会う』という写真絵本に登場する日本人だ。物語は、スウェーデン人の女の子エヴァが、一人で日本に住む友人、のり子さんのもとを訪れるというもので、畳の部屋での暮らしぶりやひな祭りに5月の節句など、日本の伝統的行事が紹介されている。

 ユダヤ系スウェーデン人の女性写真家、アンナ・リーキン・ブリックが撮影し、『長くつ下のピッピ』で有名なスウェーデンの国民的作家、アストリッド・リンドグレーンが文章を書いている。56年に現地で出版され、その後、ヘブライ語に翻訳されてベストセラーとなった。50年以上たった今も、イスラエルだけで版を重ねているという。

 実際ののり子さんはどんな女性なのか。行方を探すため、イスラエルの女性映画監督、ドゥヴォリット・シャルガルさんが8月に来日する。

「現在、アンナのドキュメンタリーを撮影中なのですが、のり子さんがもっとも主要な登場人物であるのは間違いありません。イスラエルで、この絵本は3世代にわたって読み継がれ、愛されています。もし、のり子さんが見つかったら、そのニュースを見るために、街の通りから人がいなくなる、とまで言われるほどです」(シャルガルさん)

 3年前から行方を追っているシャルガルさんだが、手がかりは決して多くない。1950年代の生まれで、東京・赤坂に住んでいたらしい。姉妹の名前は「けいこ」、エヴァが駐日スウェーデン大使の娘だったことから、のり子さんの父親もスウェーデンと何らかの関わりのあったビジネスマンだと思われる。

 なぜ、遠く離れたアジアに住む、ふつうの女の子がこんなにも愛されているのだろう。イスラエル大使館の日本人スタッフはこう説明する。

「日本でいえば、谷川俊太郎さんのような、非常に影響力の大きい児童文学者で詩人のレア・ゴールドベルグさんが翻訳をしたために、多くの親が子どもに読ませたからだと思います」

 かつてイスラエル人男性と結婚していた女性も言う。

「海外旅行が一般的ではなかった時代、振り袖を着て日本家屋に住むのり子さんはとてもエキゾチックに見えたのでしょう。のり子さんの影響からか、イスラエル男性は日本女性はみんなおとなしくて優しい大和撫子だと思っていますよ(笑)」

AERA 2013年8月5日号