11月号哲学者 小川仁志 Ogawa Hitoshi-なぜ日本はかくもしたたかで、かくもしなやかなのか?- |AERA dot. (アエラドット)

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11月号
哲学者 小川仁志 Ogawa Hitoshi
-なぜ日本はかくもしたたかで、かくもしなやかなのか?-

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 3・11の後、それでもこの国で生きて行かなければならない私たちは、一致団結して助け合うという道を選びました。奇しくもそれが、改めて日本の素晴らしさを見直すきっかけとなったのです。2013年現在、まだ震災の傷は癒えませんが、東京オリンピックも決まり、日本は着実に復興への歩みを進めています。はたしてこの強さはどこから来るのか?

 その答えを求めて、日本という国のルーツをさかのぼってみることにしました。とはいえ、私は歴史家ではありません。哲学者です。哲学者にできるのは、いや、すべきなのは、日本の思想のルーツを探ることです。

 そうして始めてみると、すぐにいくつかの大きな壁にぶつかりました。日本の思想はいったいいつから始まったというべきなのか、そもそも日本の思想とは何か、なぜ日本哲学と呼ばないのかといった問題です。いずれも非常に困難な問いで、いわばスタートの時点から頭を抱えることになったのですが、逆にいうと、これらの問いを明らかにすることこそが、自らの使命であるとはっきり認識することができました。

 震災以降、海外の研究者たちと交流を持つようになって、その使命感はより強固なものとなっていきました。彼らは皆、私に日本人としてのアイデンティティを求めてきたのです。日本人とは何か、彼らになくて私にあるものとは……。

 様々な考察を経て、結局縄文時代にまでさかのぼることにしました。それは必然的に日本の思想を最大限幅広くとらえる結果につながります。つまり、この場所で人々が行ってきた思索は、すべて日本の思想と呼んでいいと考えるに至ったのです。そして、それらは「日本哲学」と呼ぶべきであると結論づけました。というのも、哲学とは物事の本質について、言葉や論理を用いて根源的、批判的に考える営みです。それは日本人だってずっと昔からやってきたはずだからです。

 日本では、明治時代に西周が「フィロソフィー」を「哲学」と訳して以降、西洋から入ってきた哲学の研究を「哲学」と呼ぶ習わしがあります。でも、中国もインドも、大昔からの自分たちの思索を哲学と呼んでいます。なぜ日本だけが自虐的に、「哲学」は西洋からもたらされたなどといっているのでしょうか? 私はこの消極的な態度を退け、日本が自信を持つためにも、あえて日本の思想を日本哲学と呼びたいと思います。

 しかし、それにしてもこの国ではあまりに多くの思想が展開を遂げてきたので、それらをどう一括りにしてとらえるべきかが問題になります。神道、仏教、儒学、国学、西洋からもたらされた思想の数々、狭義の日本哲学……。これらはいずれも日本の歴史の中で日本の思想として享受されてきたものです。ですから、なんらかの共通点や一貫性があるはずなのです。

 私が着目したのは、「和の弁証法」という概念です。弁証法とは、近代ドイツの哲学者ヘーゲルによる概念で、ある事柄「正」に対して生じた問題「反」を、切り捨てることなくうまく発展させて、より完璧な状態「合」を生み出す論理です。

 この論理を使うと、日本の場合、常に外来思想を「反」として取り込み、新たな哲学「合」を生み出してきたと考えることが可能です。どうしてこのようなことが起こるかというと、日本人は「和」を求める国民だからです。時に外来思想におもねってまでも、ハーモニーを奏でようとするこのメンタリティが、「和の弁証法」を可能にするのです。

 その意味では、日本哲学は和に貫かれた一つの強靭な思想であるということができます。どんな外来思想がやってこようと、常にそれらを取り込んで、したたかに生きていく。あたかも日本人の生き方そのものを彷彿させます。

 そうなのです。「和の弁証法」は日本哲学の内実を解き明かすメカニズムであると同時に、日本人の強さを解き明かす理論でもあるのです。今、日本はグローバリズムという新たな外来思想に呑み込まれようとしていますが、おそらく今回も「和の弁証法」によって、しなやかに乗り切ることができるでしょう。

 日本の文化を世界に発信する「クールジャパン」に象徴されるように、弁証法はすでに胎動を始めています。日本哲学がどれほどのチカラを持っているのか。それは幾多の試練に耐えてきたこの国の歴史を見れば明らかです。思想は行動の源泉であり、エンジンでもあります。そんなしたたかでしなやかな知の蓄積がある限り、日本はきっと大丈夫です。「日本哲学のチカラ」をとくとご覧いただければと思います。


(更新 2013/11/ 7 )


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