経団連の提言では、スポーツやライブなどのイベントの優先入場やソーシャルディスタンスの緩和、国内旅行での活用、飲食店などでの飲食代や利用料の割引といったものを事例として挙げている。

 ワクチンパスポートの国内利用の意義について、第一生命経済研究所の野英生さんはこう話す。

「新型コロナの最大の問題は、『感染している人と、感染していない人』、あるいは『ワクチンを接種した人、接種していない人』が外からはわからないということ。こういう状態を“不確実性”といい、人を不安にし、経済や交流を停滞させます」

 ワクチンパスポートによって不確実性を“見える化”し、人々の不安を取り除くことで、経済が回るようになるという。

「例えば、イベントを開催する際、入場時にパスポートを持つ人とそれ以外の人の入り口を分け、後者の人には従来どおりの検温や、陰性証明などを求める。そうすれば入場がスムーズになります」(熊野さん)

 パスポートは医療や福祉でも効力を発揮する。経団連は、ワクチンの接種済みが証明できれば、入院中や介護施設に入居中の家族を見舞ったり、看取りに立ち会ったりできると訴える。

「ワクチンパスポートがあればどこまで行動を緩められるか、科学的根拠に基づいて、国として示してほしい」(正木さん)

 国内活用にあたっては課題も。その一つが、「未接種者への差別につながる」という点で、厚生労働省も危惧する。

 経団連は、事業者が自由に工夫をしながらワクチンパスポートを活用するためにも、国に不当な差別を禁止する「合理的配慮」のガイドラインを設けてほしいと要望する。

 というのも、すでに国内でもワクチンパスポートに似た取り組みが始まっているからだ。例えば、沖縄県石垣市では「接種証明」の提示で、飲食店や土産店で割引などを受けられる「あんしん島旅プレミアムパスポート」を発行している。

「石垣市の場合は、行政主導で始めているのでしっかりしていますが、個別の飲食店が独自に行い始めたら収拾がつかなくなります。ルールがない状態で広まることだけは避けたい」(同)

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