室井佑月・作家
室井佑月・作家
イラスト/小田原ドラゴン
イラスト/小田原ドラゴン

 作家・室井佑月氏は、問題だらけの東京五輪に虚しさを覚える。

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 今日は7月25日の日曜日、東京五輪は23日の開会式を終え、3日目だ。

 盛り上がってる? テレビを見ていないのでまったくわからない。新聞記事などで、東京五輪情報に触れるだけなので。

 新型コロナの感染者数が増えようが、お構いなしに決行されることになった東京五輪。

 緊急事態宣言下での祭りの開催は異様だ。あたしたち国民には不要不急の外出を禁止し、海外から参加者たちを集める。開催前まで、参加者たちは安全安心のバブル方式で守られていると豪語していたが、そのバブルは穴だらけだったことはすぐに判明した。

 招致段階からずっと、関係者の不祥事が相次いだ。招致のための裏金疑惑、招致のためについた嘘。

 福島第一原発から出ている汚染水はアンダーコントロールされている? 汚染水は垂れ流しのまま、いまだどうしていいのかわからず。

 コンパクト五輪? 世界一金のかからない五輪? 結局、蓋を開けたら大会経費はゆうに3兆円を超え、五輪史上もっとも血税を注ぐ五輪となった。

 この時期の天候は温暖で、アスリートには理想的な気候? 毎日、ニュースでは熱中症で倒れる人のことを扱っている。

 そして、あたしがもっとも許せないのは為政者がいった『復興五輪』『コロナに打ち勝った証しとしての五輪』という、心ない言葉だ。

 開催が近づくにつれ、この言葉は使われなくなってきたが。

 東北の復興に対しては、五輪を開くことで五輪関連の建設ラッシュが起きて、資材は高騰し、工事の人材も足りなくなり、むしろ被災地の足を引っ張りつづけた感じだった。

 コロナに打ち勝つことはできず、逆に東京五輪を開催することで、多くの人々に「コロナなんて心配ない」と誤ったメッセージを送ることになった。そして、感染は広がった。

 これらの言葉を簡単に使い、そして簡単に放り捨てられる為政者というのは、残酷だ。それは、あたしたちのことを掃きだめに湧く虫ケラ程度に考えていることの証左である。

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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