「地元の友だちと電車に乗っていても恥ずかしくて標準語で話していたのが、ある時期から気にならなくなって、今は大声で津軽弁(笑)」

 越谷オサムの原作を読み、「言葉にコンプレックスを持ちながら津軽弁を喋り続ける少女が動き出した」と横浜監督は言う。

 書いた脚本は全編津軽弁、俳優も津軽弁ネイティブが集まった。この映画を観て、地方と東京、昔と今、祖母と孫というある種の分断を音楽は超えると知った。これもリエゾンなのかもしれない。

「耳で聴いて、目で見て覚える三味線には三本の弦しかありません。シンプルだけど深い。人の魂が乗り移るから」。そこは津軽三味線がソウルミュージックと言われる所以(ゆえん)だろう。

 コロナで撮影スケジュールも思い通りにいかなった。「でも、そのぶん主役の駒井蓮さんが三味線を練習できた。あきらめなくてよかったです。彼女の真面目さが本作を成り立たせた」

 横浜聡子監督も、主演の駒井蓮さんもけっぱった。難解とされる津軽弁だが、そこにテロップを入れない潔さに好感を持った。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2021年7月23日号

著者プロフィールを見る
延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

延江浩の記事一覧はこちら