「味を占めた」白石は、同じ手口で以後7人の女性を殺害する。ツイッターで「疲れた」「死にたい」と呟く女性をフォローし、ダイレクトメッセージを送って自宅に誘い、悩みを聞いて酒や薬を飲ませ、首を絞めて失神させて強制性交。ロフトを使って殺害し、解体と遺棄(20歳の唯一の男性被害者は、Aさんの家族と連絡を取ったので「証拠隠滅のため」に絞殺)。

 2カ月という短期間に多数の犠牲者だ。なぜそうなったのか?

 公判で、犯行目的を「お金と性欲」と認めた白石は、犯行期間中の別の女性との合意性交を「性的興奮が足りなかった」と供述した。

 つまり、強奪金額が数百、数千円でも殺害を続けたのは、「解体の負担よりレイプの快感が勝っていた」からだ、と。やがて殺害行為も「性的興奮」に変わり始めた。

 それにしても不明なのは、そんな鬼畜の所業につながる白石の人生上の要因だ。著者は、逮捕後に家族の面会が皆無の状況などから家族間の「深い溝」に注視する。

 それもあるだろう。または「ヒモ」願望を生んだスカウト業。

 白石は女性を騙し売春させたスカウト時代にも逮捕されたが、「ラクして儲かる商売」と気に入っていた。この時期を洗えば、意外な側面がわかるかもしれない。

 いずれにせよ、面会と裁判の記録が描き出すのは輪郭のみ。事件の全貌が本当に明らかになるのは今後の調査次第と言える。

 SNS上では現在も、「疲れた」「死にたい」という男女の声が行き交っている。しかし、応答するメッセージの中には「卑劣な悪意」もあることを、本書の座間9人殺害事件は教えてくれた。

 今年の1月5日、昨年12月15日の死刑判決に対して控訴を取り下げた白石の死刑が確定した。

週刊朝日  2021年5月28日号