「バイトは本当に強がりでもなんでもなく、社会経験としてやってみたかったんです。車のディーラーと飲食店のホールスタッフをやったんですが、飲食店では何回もお客さんにビールをかけちゃって、オーナーから『お前、全然向いてない!』って言われていました。でも19年にニューヨークに語学留学したんですけど、パンケーキ屋さんで手伝いをしたとき、この経験が生きました。もうビールをこぼさなかった!(笑)」

 コロナ禍はさまざまなことを思う時間にもなった。

「ずっとお仕事をさせていただいてきて、ありがたい半面、自分に向けた時間を実は取ってなかったな、と思ったんです。昨年は少し余裕ができて、じっくり自分と向き合うことができたし、なんか『焦らなくてもいいや』と思えるようになりました。10代からこの仕事をしてきて、やっぱりどこかずっと追われている感じ、ずっと走っている感覚があったんです。階段でいうと“踊り場がない”という感じ。それが『ちょっとずつでいい』と思えてきた。30歳になったからということもあると思います。もちろん厳しい状況に身を置くことも大事なんですけど、もうちょっとそのバランスを整えられたら、というのが理想です」

 今後は30代ならではの役にも挑戦していきたい、という。

「『花様年華』のような大人の恋愛をテーマにした作品もやってみたいし、お父さん役や家族の物語……いろいろやってみたいです。これからどういう役に出会えるのか、楽しみです」

(中村千晶)

柳楽優弥(やぎら・ゆうや)/1990年生まれ。東京都出身。2004年にスクリーンデビュー作「誰も知らない」でカンヌ国際映画祭史上最年少・日本人初の最優秀男優賞を受賞。主な出演作に映画「ディストラクション・ベイビーズ」(16年)、「銀魂」シリーズ(17、18年)、「夜明け」「泣くな赤鬼」(ともに19年)、ドラマ「ゆとりですがなにか」(16年)などがある。主演映画「HOKUSAI」「太陽の子」が21年公開予定。

週刊朝日  2021年3月5日号より抜粋