高座にあがってみる。胡座をかいたり、寝転んだり。そうさ、俺は自由さ。普段出来ないことをしてみるか。高座に登場するときの、「出」の練習をしてみた。ゆっくりとした足どりやら、早足やら、愛想振りまいたり、ムスッとしてみたり。オリジナルな登場スタイルを研究。誰かに見られたらかなり恥ずかしい。

 座布団を敷いて、誰もいない客席にむかって、酔いにまかせ習いたての噺を大声でさらってみた。二日酔いのガラガラ声も観客のいない寄席に響き渡るとキレイに聴こえた。独りで舞台袖の太鼓を叩く。音が胸にぶつかるとさっきまで呑んでたチューハイが込み上げてくる。だめだ、こりゃ。アタマが割れそうになってきた。先輩が来るまで30分眠れるな。自分の着物を上掛けにして太鼓部屋の板の間に横になる。うぅ、気持ちが悪い。

 久々に終電を逃したタクシー待ちで思い出す。こんなダメ前座、今もいるんだろうな。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。YouTube 「春風亭一之輔チャンネル」ぜひご覧ください! アーカイブもいろいろあります

週刊朝日  2020年11月20日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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