春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「知事」。

【画像】一之輔氏が想定!すき焼きはどんな状況であれ、美味しい!?

*  *  *

 先日、都知事の定例会見で、小池百合子都知事が記者からの質問に「アクリル板を作ってすき焼き食べて美味しいかっていうのはよくわかりませんけれども……うふふ」となんとも不用意な発言をかましてました。

「おい、何言ってくれてんだ!(怒)」とすき焼き屋さん、総立ち案件。「誰が好き好んでアクリル板なんか立ててんのよ! そんなもんないほうが食べやすいなんて百も承知だわよ! でもそういう対応しろと、あんたが言うからこっちはいやいややってんじゃないのっ!」と日本中のすき焼き屋の仲居さんが割り下の入った急須を振り上げて怒っている……んじゃないだろうか。ご心中お察しいたします。

 軽ーくかました後に、クスクスってかんじで微笑む百合子。……うーん。まぁ、ジョークのつもりなんだろうけど……そういうとこだぞ、百合子っ!! 無意識有意識に関わらずヒトの神経を豪快に逆撫でする軽口。これぞ、the・百合子の真骨頂です。

 まずここはちゃんとしておきたい。「すき焼き、美味しいよ」と百合子に言いたい。すき焼きはどんな状況であれ、美味しいんだよ。百合子。アクリル板越しにみんなの前で食べてごらん。きっと「あら、美味しい!」とあなたは目を見開くだろう……百合子がやると、わざとらしさとあざとさが先立って妙な空気になるだろうか。と、ここまで書いたら、カメラの前でカイワレをムシャムシャ頬張る往年の菅直人が脳裏に浮かんでしまった。何年かに一回こういうパフォーマンスってあるよな。やっぱりやらなくていいです。でも、どうしたってすき焼きは美味しいのだ。

 百合子が口を滑らす前に、あらかじめ今後飛び出すかもしれないアクリルがらみの失言を想定してみたい。今のうちに免疫つけといたほうがいいです。

「アクリル板越しに落語を聴いて面白いかっていうのはよくわかりませんけれども……ふふふ」。うーん。これはおっしゃる通りかも。一枚あるないではだいぶ違うけど、言われたら腹立つ。百合子、落語聴いたことなさそうだけど(イメージ)。

著者プロフィールを見る
春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

春風亭一之輔の記事一覧はこちら
次のページ