北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、新型コロナウイルス感染拡大をめぐる日本と諸外国の対応の差について。

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 自分の文章を推敲していて、驚いた。「まさに、それは」と始まる文章が、短い原稿のなかに3カ所もあったのだ。ぎゃッ!! 紙時代であれば原稿用紙をぐしゃぐしゃに丸め、ごみ箱に放るのだと思った。「まさに、それはですね! 前例にとらわれず思い切った布マスク2枚の配布であり、お肉券の配布なのであります!」みたいな安倍さん(安倍晋三首相)の口調が、うつったのではないかと不安にかられた。いろいろ過敏になっている。

 少し前は先の見えない不安に襲われていた。でも今は、先が見えているので不安だ。「まさに、それはですね!」とか「三つの密でございます」とか、たいしたこと言ってないのに大きく見せる技術だけを磨いてきた政治家の無策で、遠くない未来にニューヨークのように、イタリアのように苦しむ可能性は限りなく高い。

 パリに暮らすライターの中島さおりさんが、ラブピースクラブに、現在のフランスの状況を寄稿してくれた。そこにこんな文章がある。現在の状況が「戦争」に例えられることについてだ。

「疫病は戦争とは違い、国家が、(略)人間の命を救おうとしている」

 この一文を読み、私は頬をはじかれたように感じたのだった。ぜんぜん違う。日本にいたらこうは思えない。なぜなら私の今の気分は全く逆なのだ。

「疫病は戦争と同じで、国家に殺される」

 フランス政府は感染拡大を防ぐために強制的に外出を禁止し、同時に全てのフランス人の収入源を確保すると約束している。医療崩壊寸前のフランスの今は決して楽観できる状況ではないが、それでも最善を尽くそうとする政府の姿勢が国民に伝わっているのだ。一方、日本はなに。

 私は昨年11月に大阪の百貨店にお店を出した。本来なら新生活に向けてにぎわう季節だろう。ところが1月から、ぱったりと客足が途絶えた。増税に加えての疫病の影響は死活問題だ。百貨店全体の売り上げは前年比4割減と言われているが、私のお店も、相当に厳しい。スタッフに聞けば、フロアには従業員しかいないという。「自粛しろ」という声は上のほうから聞こえるが、「あとは自己責任で」と放り出されているようなものだ。

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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