このとき徳仁天皇は、

「私はよく山好きと言われますが、単に山が好きで登っているというのではなく、修験道の山を選んで登っているのです」

 と竹内会長に話したという。たしかに、これまでに登った山のレベルをみると、ストイックな求道者のような雰囲気もある。

 その一方で、竹内会長は、徳仁天皇の別の一面も垣間見たという。

「当日は私どもの山小屋にお泊まりになりました。入り口に『遠い飲み屋』という赤提灯があるのですが、ネットで調べられたのか、それを見て、『そう、これこれ!』と喜んだ様子で写真を撮られていました」

 食事のときも豚汁を「おいしい、おいしい」とおかわりしていたといい、酒も多少たしなんだという。

「この日は『13年間でやっと2日休みが取れ、泊まりで山に登れるのがとてもうれしい』と、本当に楽しそうでした」

 話を那須連山に戻そう。徳仁天皇は那須の御用邸に滞在する際に、よく那須連山に登る。茶臼岳、三本槍岳、朝日岳などが連なる日本百名山の一つだ。1915メートルの茶臼岳の9合目までロープウェーがあり、そこから一番近い頂上の茶臼岳までは1時間ほどで着く。高い木々が生えなくなる森林限界を超えているので、360度の眺望を楽しめる。空気が澄んでいると眼下に那須の街も見える。

 92年は徳仁天皇一人で、そして09年には雅子さま愛子さまと一緒に登ったのが三本槍岳である。

 登山口の峠の茶屋からは登りが続くが、15分ほどですぐに森林限界を超え、急に視界が開ける。さらに20分ほど歩くと、峰の茶屋跡避難小屋に着く。ここから先は稜線を歩き三本槍岳を目指すことになる。遮るものがなく、視界が開けた稜線を歩くのは、那須連山登山の醍醐味だ。

 天皇ご一家が歩いたルートなら、初心者でも手軽に家族で高山気分を満喫できる。登山の少しスリリングな気持ちを味わいたいなら、那須穂高とも呼ばれる朝日岳に立ち寄るのもいい。急崖や鎖場もあるが、慎重に行けばそれほど危険な箇所はない。その先には、それまでとは違う絶景が広がっている。ただ、那須は風が強く吹くことが多いので注意が必要だ。

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