徳仁天皇が登った山で、那須連山より少し本格的な登山が楽しめる山が、日本百名山の一つである金峰(きんぷ)山だろう。徳仁天皇が高校1年だった75年に、学友とともに登っている。

 徳仁天皇は今年の歌会始の儀で、こう詠んだ。

 雲間より さしたる光に導かれ われ登りゆく 金峰(きんぷ)の峰に

 曇りの中で歩みを進め、頂上に近づくに連れ、日の光に導かれるようになり、山頂へ達した、との思いを込めたという。

 75年の金峰山登山のコースは、前日、増富温泉に宿泊し、瑞牆(みずがき)山への登山口となる富士見平小屋、大日岩を経て、金峰山へ続く稜線を歩き、2599メートルを登頂。戻りは、そのまま進んで金峰山の別の登山口となる大弛(おおだるみ)峠へ下りるという約6時間の行程である。このルートは、前夜泊が必要であり、途中に急登もある中級者レベルである。

 徳仁天皇と同じコースを歩いてみたいけど、ちょっと難しいかな、と思う人には別のコースがある。

 徳仁天皇がゴールとした大弛峠を起点に、金峰山の頂上を往復するルートならそれほど厳しい箇所や急な登りもなく、初心者でもロイヤルルートを楽しめる。往復約4時間で適度なアップダウンがあり、緑の多い樹林帯、さえぎるものがない森林限界、岩山の気分が味わえるガレ場と、いろいろな山の姿を体験でき、一山で何度も山の楽しさを満喫できる。

 金峰山の山頂には巨石が何段も積み上がり、4階建てビルに相当する大きさの五丈岩が間近にそびえている。眺望もよく、北西には荒々しい岩肌で、徳仁天皇が「一番印象に残っている山です」と語った瑞牆山が見える。空気が澄んでいると、さらに奥に八ケ岳連峰、南に目を移すと南アルプス、そして富士山と、周囲の百名山が目に飛び込んでくる。

 この夏は、普通の登山からグレードアップして、「ロイヤル登山」を体験してみては。「この道を徳仁天皇が歩いた」と思うだけで、同じ道を行く自分も少しだけ高貴な気分になれるかもしれない。(本誌・鮎川哲也)

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