そこでびっくりしたのは、GHQ案の憲法条文の「主権」を、日本政府は「至高の総意」と訳し、意味をごまかそうとしていたことだ。現在「私たちは主権者」と国会前で当たり前のようにコールしているが、GHQのケーディス大佐は「至高の総意では主権の意味が通らない」とはねつけたということが書かれていた。拍手喝采である。こんな大事なことを日本政府はごまかす。その姿勢は今も変わらない。

 3冊目は、残念ながら私の『大工の明良、憲法を読む』。なぜ残念かというと、この本の出版以前も以後も、素人の生活者が読んでわかりやすい憲法条文解釈の逐条本が一冊も出ていないからだ。依然、憲法は専門家のお堅い話に終始していて、素人の生活者を遠ざけようとしている。

 もっとも憲法を必要としているのは、圧倒的多数の主権者である素人・生活者である。生活者が憲法を学び、目覚めれば日本が変わる。

 憲法は国民主権、民主主義、平和主義が大切という、専門家がつくった概念だけを習うのはダメ。すぐ忘れる。憲法条文そのものを自分ですなおに読んで、どう自分が受け取るか、理解するかから始めなければ、自分のものにならない。条文一条一条を自分の感性で理解してこそ、主権者としての自覚が身に着く。そのために最も近い本が、大工の明良が生活者感覚と思考で書いた本。これです。

あきよし・さとう=1943年、東京生まれ。町工場や図書館、養護施設で勤務したあと大工に。著書に『八月十五日のうた』『日本人の精神と西洋人の精神』など。

■辻田真佐憲(近現代史研究者)
(1)『日本人のための憲法原論』小室直樹 集英社インターナショナル 1800円
(2)「憲法2・0」ゲンロン憲法委員会 「日本2・0 思想地図β vol.3」収録、ゲンロン
(3)『踊りおどろか「憲法音頭」』和田登 本の泉社 1700円

 憲法は、圧政による悲劇を防ぐために、人類が試行錯誤のなかで生み出した英知のひとつである。条文だけでは抽象的で掴みどころがない印象を受けるかもしれないが、その誕生の歴史をたどるとグッと具体的でわかりやすくなる。

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