「デビュー2、3年目のころから、辰巳屋の争いは面白いのでいつか書きたいと思っていました。大岡日記などを調べると吉兵衛の裁きがいつまでも決まらない。調べているうちに発見した部分もあった。私は結末を決めずに書き始めるタイプなので自分でもどうなるのかわからない。ただ大坂商人は皆さんが思ってはるほどえげつなくないんです」

 選考委員の安部龍太郎さんは「投獄された吉兵衛のシーンは出色。大坂と江戸の経済的なせめぎ合いもうまくとらえている」と評する。

 朝井さんは2014年に『恋歌』で直木賞を取ってから、織田作之助賞、中山義秀文学賞、舟橋聖一文学賞と毎年のように受賞している。司馬さんについて聞かれると、

「とてつもなく巨大な存在です。なかなか超えられるものではありませんが、ちょこちょこっとチャレンジしてみたい」

 と明るく答えた。

 また、司馬遼太郎フェローシップには大阪松竹座勤務の西島春乃さん(24)が選ばれた。贈賞式は来年2月16日にNHK大阪ホールで開催の菜の花忌で行われる。(山本朋史)

週刊朝日  2018年12月14日号