米国は17年末、国防総省と取引のある事業者に対し、商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)が定めたサイバーセキュリティー基準に準拠した情報システム導入を求めた。これが他産業にも波及し、18年5月には米国の自動車産業界も国防総省と同等の基準を入れる方針を示した。

 中国政府もインターネット安全法を17年に施行。米国の動きを意識しており、中国政府が認めたサイバーセキュリティー技術の導入を近く企業に求める可能性が高い。そうなれば、中国基準を導入していない自動運転車は中国内を走れなくなる。その逆も言え、米国基準に対応しないと米国内を走れない。

 自動車市場の規模は、中国1位で、米国2位。日本の自動車メーカーの多くは、両国市場への依存度が高いゆえに、その動きを無視できない。結局、両国基準に合わせたクルマの開発をそれぞれ行い、コストは大きく跳ね上がるだろう。

 今回の米中貿易摩擦から見えることは、安全保障政策が通商政策を上回る、ということだ。大胆に言えば、経済合理性や消費者の利益よりも国家の威信のほうが重要になっている、ということでもある。市場に魅せられて安易に動くと「標的」になってしまう時代に突入した。グローバル商品をつくってきた自動車産業が岐路に立たされている。

週刊朝日  2018年11月23日号より抜粋