トヨタが中国の合弁先とつくる電気自動車のコンセプトカー (c)朝日新聞社
トヨタが中国の合弁先とつくる電気自動車のコンセプトカー (c)朝日新聞社
中国での自動車販売(週刊朝日2018年11月23日号から)
中国での自動車販売(週刊朝日2018年11月23日号から)

 米中貿易戦争のあおりで、トヨタが板挟みの状態に。トランプ大統領からは就任直後に対日貿易の赤字でやり玉に挙げられ、巻き返しを狙いたい中国でも事業拡大は一筋縄ではいかない。 ジャーナリストの井上久男氏は今後、こうした苦境はトヨタ以外にも及ぶと予測する。

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板挟みなのはトヨタだけではなく、日本政府もだ。5月の李首相の来日以来、中国側は日本へ急接近している。マクロ経済政策などの立案、調整を行う中国国家発展改革委員会のハイテク担当、日中連携担当らの副主任が頻繁に来日し、首相官邸を直接訪問。日本に対し、様々な中国でのプロジェクトへの参加を打診しているという。

 米中貿易戦争で、米国が中国を封じ込めようとする動きの中で、中国は日本を味方(仲間)に取り込もうという戦略だ。今年8月、中国と日本がEVの充電器規格で共同開発することが急きょ決まったのも、中国の戦略の影響だ。

 充電器規格は日本の「チャデモ」、欧米の「コンボ」、中国の「GB/T」が主導権争いをしていた。中国側が急に日本にすり寄り、共同開発を申し出たという。普及状況は現在、GB/T22万基に対し、チャデモは1万8千基。中国が強い立場なのに日本にすり寄ったのは、日本の自動車産業を中国側に取り込みたいねらいがある。

 首相官邸を直接訪れるのにも訳があるようだ。霞が関では、対応の窓口となる「外務省と経済産業省が逃げたからだ」との噂が立つ。両省とも米国との関係を意識し、中国にいま近づきすぎるのはまずいと考えているからだ。「日中関係の改善に合わせ、経団連など日本の財界団体が盛んに訪中ミッションを組んでいることに外務省が不快感を示し、訪米ミッションもしてほしいと経団連に申し入れするかもしれない」(霞が関の官僚)という。

 米中貿易摩擦は今後、トヨタに限らず、多くの自動車メーカーに影響を与えるだろう。その一つがセキュリティー対策。ネットと常時つながる「コネクテッドカー」や、自動運転の時代には、ハッキング対策のためにセキュリティー対応が重要になる。現状は国際標準がなく、確立に向けて米中が水面下で火花を散らす。

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