あるいは、矛盾だらけの反日ドラマ。現場では、監督もスタッフも俳優も、個人的には反日ではない。

 それでも荒唐無稽なドラマが量産され続けるのは、言論・表現の自由のない中国でこの分野が唯一、暴力や性や反抗を遠慮なく描ける安全地帯だからだ。大枠さえ守れば何でもアリ、いわば中国版「水戸黄門」。

 七つの潜入現場を巡るうち、著者は次第に、世界第2の経済大国に躍進した中国社会の「原動力」を、庶民レベルで理解し始める。

 どこの現場でも共通するのは、就職と退職のあっけない簡便さ。

 寿司屋でも高級ホストクラブでも、5分ほどの面接で即採用。年齢も国籍も障壁にはならない。加えて、やる気さえあればアルバイトから正社員にもなれる。労働市場が開放的なので、何度でもやり直せるのだ。

 なるほど、中国人は日本人に比べれば利己的で公共心に欠け、規則・法律に無頓着かもしれない。そのことは否定できない。

 しかし、広すぎる国土に多すぎる人口、しかも一党独裁の国家において、「自分ファースト」に徹する以外に生き残る道はあるだろうか。

 利己的で組織に頼らない中国人は「独立志向」では他国に負けない。

 どんな領域であれ「大風呂敷を広げ、とりあえずやる」のが彼らの流儀だ。当たれば儲け物なので、少々の失敗やトラブルには動じない。

 頼りにするのは「身内」。それ以外は同国人でも信用しないのだ。

 潜入中、著者は初めて会った中国人に「身内」扱いされ、下宿探しの同行申し出を受けた。ところが帰国後、中国人留学生寮の管理人になり、物件探しも手伝うが、中国人に部屋を貸す大家は1割ほどしかいない。

「(今後も中国人観光客が増え続けるなら)我々の側も、もう少し“中国人慣れ”する必要がある」

 本書はその第一歩になりそうだ。

週刊朝日  2018年9月21日号