中国は隣国ではあるが、「近くて遠い国」
中国は隣国ではあるが、「近くて遠い国」

 ノンフィクション作家の足立倫行氏が選んだ「今週の一冊」は、『ルポ 中国「潜入バイト」日記』(小学館新書/西谷格)。本書に「働く場で見た中国社会の原動力」を見たという。

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 街中でスーツケースを引いた中国人観光客に頻繁に出会う。コンビニや牛丼店でアルバイトの中国人店員を見かけるのも日常的な光景だ。

 それもそのはず、激増する訪日外国人観光客の中で断トツの1位は中国人である。約31万人の日本滞在留学生のうち、約4割とトップを独占しているのも中国人留学生。

 私たちはいつの間にか、中国人と接することなしに日々の生活が成り立たない時代に生きているのだ。

 その割に、日本人の対中国人イメージは一面的だ。爆買い、無秩序、割り込み、不潔、利己主義、反日教育……。否定的かつ観念的である。

 いったい「普通の、リアルな中国人」とはどのような人々か。

 それを知るため、上海在住だった日本人ライターが、中国人の労働現場に潜入体験してみたのが本書。

 体験した現場は、上海の中国系寿司屋、反日ドラマの日本兵役、富裕女性相手の高級ホストクラブ、中国人爆買いツアーのガイドなど七つ。

 衛生感覚を探るべく潜入した寿司屋では驚くことの連続だった。

 キッチンに入る前もトイレから出た後も、手洗いは無し。床に落としたスプーンをそのまま使う。床の上に俎板を直に置き、魚をさばく。

 反日ドラマでも粗雑さが際立つ。大日本帝国は「悪の権化」なので、日本兵役は苦しみながら大袈裟に死んでゆく。だが、将校ではない下級兵役の著者が軍刀を、しかも背中に背負うのはなぜか。兵士の小銃に、敵の標的となる日の丸を付けるのはなぜか。時代考証はあるのか。

 呆れるエピソード満載だが、本書がキワモノ本と異なるのは、著者が相手側の事情を熟考している点だ。

 例えば寿司屋。マグロが赤黒く変色していようが、その上に調味料とマヨネーズをかけガスバーナーで焙った味(=中華味)が客の好みならば、店にとって鮮度、衛生は問題ない。所詮「寿司」はエスニック料理。中国流アレンジは当然と言える。

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