同町は人口2万5千人。民間研究機関の試算では、人口減が止まらない「消滅可能性都市」の一つになっている。寄付金は重要な収入源で、小中学校の給食費の無料化や18歳までの医療費の無償化などの財源に充てている。

 嬉野市(佐賀県)は返礼率を約6割と高く設定していることについて、市の宣伝になると考えている。温泉地として観光に力を入れており、ふるさと納税を通じて知名度を上げたいという。

「これまで嬉野を知らなかった人に知ってもらうきっかけになっている。自治体ごとに狙いがあり、返礼率を柔軟に設定してもいいのではないか」(担当者)

 もつ鍋の返礼品が人気の宗像市(福岡県)は、総務省からブルガリア産のはちみつやワインが地場産品以外に当たると判断された。ブルガリアのカザンラック市と10年に友好都市協定を締結していて、以前から地元業者がはちみつやワインを輸入していたという。

「地元経済の振興にも効果があると考えていた。見直しは検討するが、取りやめる予定はまだありません」(担当者)

 佐伯市(大分県)が納得いかないのは、地元食材を扱う飲食店の食事券が、地場産品以外のものだと判断されたことだ。市内だけでなく東京の高級料理店のものも用意したが、総務省の通知の趣旨から大きく逸脱しているとは考えていない。

「寄付者が市まで来てくれれば一番いいが、すぐに『行こうか』とはならない。食を通じて一回でも体験してもらえれば、その後、市の産物を買うことや、訪れてくれるきっかけになります」(担当者)

 高い返礼率や商品券などを武器に寄付金を集めることに、東京など大都市の自治体は強く反発している。東京・23特別区の18年度(課税年度)の減収額は300億円を超えた。各区長らは「行政サービスに影響が出かねない」と悩む。

 これについて、総務省から名前を公表されたある自治体の幹部はこう反論する。

「地方から東京など都市部に人材がずっと流出してきた。都市部は企業も多く税収も増えていて、人口減で苦しむ地方の自治体とは立場が違う。そもそもふるさと納税は都市部から地方にお金をまわす仕組みなので、東京などが減収になるのは当たり前でしょう」

 国や自治体間の主張には隔たりがあるようだが、消費者にとってはお得な返礼品は魅力的。ふるさと納税をする人はますます増えるのかもしれない。(本誌・吉崎洋夫)

週刊朝日  2018年8月31日号

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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