不仲説を払拭? ピート・タウンゼントとの友情で生まれたロジャー・ダルトリーの新作 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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不仲説を払拭? ピート・タウンゼントとの友情で生まれたロジャー・ダルトリーの新作

連載「知新音故」

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小倉エージ週刊朝日#小倉エージ

今年74歳になったロジャー・ダルトリー。ザ・フーではピート・タウンゼントとの内紛もしばしば

今年74歳になったロジャー・ダルトリー。ザ・フーではピート・タウンゼントとの内紛もしばしば

ロジャー・ダルトリーの26年ぶりのソロ・アルバム『アズ・ロング・アズ・アイ・ハヴ・ユー』(ユニバーサル ミュージック UICP-1181)

ロジャー・ダルトリーの26年ぶりのソロ・アルバム『アズ・ロング・アズ・アイ・ハヴ・ユー』(ユニバーサル ミュージック UICP-1181)

ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズと並ぶ英国の代表的なロックバンド、ザ・フー(The Who_Fillmore East 1_Pictoria Press Ltd Alamy Stock Photo)

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実演から半世紀ぶりに音源が発表されたザ・フーの『ライヴ・アット・フィルモア・イースト 1968』(ユニバーサル ミュージック UICY-15727/8)

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ピート・タウンゼントのソロ『フー・ケイム・ファースト(45周年記念エディション)』は最新リマスター、未発表音源を含む2枚組(ユニバーサル ミュージックUICY-15729/30)

ピート・タウンゼントのソロ『フー・ケイム・ファースト(45周年記念エディション)』は最新リマスター、未発表音源を含む2枚組(ユニバーサル ミュージックUICY-15729/30)

 ザ・フーのファンに朗報続々! 今春、50年前に収録された未発表ライヴ音源『ライヴ・アット・フィルモア・イースト 1968』、さらにピート・タウンゼントの『フー・ケイム・ファースト(45周年記念エディション)』が発売された。このほど、ロジャー・ダルトリーのニュー・アルバム『アズ・ロング・アズ・アイ・ハヴ・ユー』も登場し、愛好家を喜ばせている。

【写真】『アズ・ロング・アズ・アイ・ハヴ・ユー』のジャケット写真はこちら

 ザ・フーのフロントマン、ヴォーカリストとして活躍してきたロジャーのソロ・アルバムは26年ぶり、9枚目となる。今回はピート・タウンゼントが7曲でゲスト参加しているから、ファンは見逃せない。

 ロジャーは4年前にウィルコ・ジョンソンとのコラボレーション・アルバム『ゴーイング・バック・ホーム』を出し、全英チャート3位を記録。この成功に刺激され、ソロ・アルバムの制作に取りかかった。

 完成させるまでにザ・フーの50周年記念ツアーがあったり、髄膜炎で生命の危険にさらされたりし、制作は何度も中断。一時は断念しかけた。だが、制作途中のラフ・ミックスを聴いたピートがロジャーを励まし、演奏でも参加協力。かつてバンドの主導権を争った2人の“友情”で生まれたアルバムとも言える。

 本作は過去8作のソロ・アルバムとは趣が異なる。ザ・フーの前身、ハイ・ナンバーズの時代に取り組んだソウル・ナンバーを生かしている。

 ロジャーがこう語る。

「ピートが僕たちの曲を書き始める前の時代、10代の僕たちがバンドを組んで、教会のホールでわずかな観客を前にソウル・ミュージックをやっていた時代への原点回帰だ」

「いつだって心を込めて歌ってきたが、19歳といえばまだ人生経験がなく、感情を揺さぶる試練やトラウマを味わっていない……失われた愛の痛みを感じられる。感じること。そして歌うこと。それがソウルだ。長い間、僕はこういう曲が持つ素朴さに回帰したいと思っていた」

 もっとも、今の時代にリンクさせなければノスタルジーに終わってしまうことから、今のロジャーの気持ちを反映した曲を探し出すとともに、オリジナル曲も収録することになった。

 アルバムの幕開けを飾る表題曲は、ハイ・ナンバーズ時代のレパートリーだ。もとはガーネット・ミムズの曲で、1960年代後期にイギリスでもてはやされ、レッド・ツェッペリンも演奏していた。ロジャーは、ブラス、ゴスペル・スタイルのコーラスをバックにワイルドに歌う。

 ファイヴ・キーズの「アウト・オブ・サイト、アウト・オブ・マインド」、ジョー・テックスの「ザ・ラヴ・ユー・セイヴ」もハイ・ナンバーズ時代のレパートリー。ゆったりとしたサザン・ソウル・スタイルの演奏で、ソウルフルな歌を聴かせる。

 カントリー・ソウルの「ホエア・イズ・ア・マン・トゥ・ゴー?」は、ダスティ・スプリングフィールドのカバーに触発されたらしく、女唄を男唄に歌詞を改めた。サザン・ソウルにロック的な要素を加味している。ボズ・スキャッグスのカバー曲「ユア・ラヴ」では、ブルース色の濃いボズと違い、ストーリー・テリング的な端正な歌を披露。ピートのシンプルなギター・ソロも興味深い。

 スティーヴン・スティルスの「ハウ・ファー」、ニック・ケイヴのカバー曲「我が腕の中へ」は意外な選曲。前者では、ピートが個性的なギターを披露する。後者では、ピアノとベースをバックにしたロジャーの丹念な歌が聴きどころ。

 パーラメントの70年の曲を改題した「ゲット・オン・アウト・オブ・ザ・レイン」、スティーヴィー・ワンダーの74年のヒット「悪夢」は、歌詞に着目してのことに違いない。前者では“大統領は「変化」について語っているが、それを続けるようなまともな頭の持ち主は一人もいない”と歌われ、後者はニクソン大統領のウォーターゲート事件などへの批判を込めた歌だ。当時と今の社会状況はなんら変わっていないという考えから、今回採り上げたのだという。

 ロジャーのオリジナルは2曲。シンガー・ソングライター、ジェラルド・マクマホンとの共作「サーティファイド・ローズ」は娘のロージーに捧げる内容だ。小説家ナイジェル・ヒントンと共作した「オールウェイズ・ヘディング・ホーム」は人類愛についての歌。情熱あふれる歌いぶりに、ピートは「ロジャーのヴォーカリストとしての力が頂点に達していることを示す」と評している。

 本作の直前に世に出た2作にも触れておく。

『ライヴ・アット・フィルモア・イースト 1968』は、マイクを振り回すエネルギッシュなパフォーマンスが目に浮かぶ。「ハッピー・ジャック」などのヒット曲、エディ・コクランのカヴァーのハード・ロック版もさることながら、30分に及ぶ「マイ・ジェネレイション」の即興演奏は圧巻。革新的と評されたバンドの実相、後のロック・オペラへの展開への萌芽を見いだせる。名盤『ライヴ・アット・リーズ』にも匹敵する貴重なライヴ・アルバムだ。

 ピート・タウンゼントの『フー・ケイム・ファースト(45周年記念エディション)』は、これまで順次発表されてきたアウト・テイクなどの集大成。未発表音源を含む17曲のボーナス・トラックが興味深い。(音楽評論家・小倉エージ)


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小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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