ところが今回、ムーア氏に約40年前のわいせつ疑惑が浮上した。これにムーア支持のスティーブン・バノン前首席戦略官が強い危機感を抱き、共和党右派にはイスラエル擁護者が多いことから、ムーア氏をなんとしても勝たせるために、トランプ大統領にエルサレムをイスラエルの首都と認めることを強く求めたということのようだ。そのためにトランプ大統領は世界中から非難される決断をせざるを得なかったことになる。

 だが、ムーア氏は敗れ、上院は共和党51、民主党49となった。今後、トランプ大統領の議会運営は困難を極めると予想され、重要案件は行き詰まるのではないかとみられている。共和党上院議員の2人が反対すれば、法案は不成立となるからだ。

 日本の防衛関係者たちが気をもんでいるのが、米国の北朝鮮戦略である。安倍首相が野党やメディアに「大義なき」と非難されながらも9月28日に衆議院を解散したのは、実は年末年始にかけて米国の北朝鮮への武力行使が起きる危険性が高く、だから早く選挙をして態勢を整えるためだとされていた。

 だが、トランプ政権は世界中から非難され、米国内でも力を失い、北朝鮮に武力を行使するエネルギーなどなくなったのではないか、という見方が強まっている。もっとも、国内運営が行き詰まるので、逆に武力行使に走るのではないか、という見方もある。

週刊朝日  2017年12月29日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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