「最近、舞台で女形を演じていなかったのは、僕が50代になったことが大きかったんです。ヒロインというのはどうしても美しかったり、若かったりすることがほとんどなので(苦笑)。でも今回は、老女で、とても大衆に愛されたキャラクター。昨年上映された映画『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』ではメリル・ストリープが演じています。嬉しいのは、同世代に素晴らしい女優さんたちは大勢いらっしゃるのに、あえて、『篠井にやらせたら面白かろう』と思ってくださった人がいたこと。そうやって、僕に期待してくださったからには、期待通りか、期待以上のものを見せなければ。でないと女形の僕には先がない。そのくらい切羽詰まった気持ちで毎回取り組んでいます。綱渡りです(笑)。だから、“自分にこのくらいの役がくるのは当然だ”と、暢気にしている俳優さんを見るたびに、若い頃は腹を立てていましたね(笑)」

 女形として役と巡り合える難しさを痛感しているからこその言葉。そうして新たな役を得て、篠井さんの切実かつユーモア溢れる芝居は、観る者の想像力を刺激する。

週刊朝日  2017年8月4日号