ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。フェイクニュースを流通させる衝撃のコストについて解説する。

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 フェイクニュースがなぜつくられ、世の中で流通するのかつぶさに調べた衝撃のリポートが6月13日に発表された。

 発表したのは、セキュリティー企業のトレンドマイクロ。リポートでは、フェイクニュースを政治プロパガンダ目的で利用する場合に必要なコストが、様々なデータとともに示されている。

 実は、フェイクニュースを使った政治プロパガンダは簡単に行える。そういう工作を請け負う専門業者が世界中にたくさん存在するからだ。例えば、中国のコンテンツマーケティング企業「ジージバング(Xiezuobang)」に800語のでっちあげニュースを書かせたければ、わずか30ドル(約3300円)でOK。

 ロシアにあるソーシャルメディア最適化企業「SMOサービス」に依頼すれば、621ドル(約6万9千円)でユーチューブのメインページに2分間の映像を登録できる。投稿した映像に「サクラ」によるコメントを100個つけるのは、2.6ドル(約290円)というから驚きだ。

 発信する情報に注目を集めることもお安い御用。英語を主言語とするフォロワー販売企業「クイック・フォロー・ナウ」に依頼すればいい。2500人のツイッター・フォロワーに特定のリンクをリツイートさせるのは、わずか25ドル(約2780円)で可能だ。

 こうした外部業者を組み合わせて利用すれば、特定の人物の評判をフェイクニュースで落とすことも簡単にできる。例えば、4週間にわたって否定的な記事をツイッターのフィードに流し続け、その記事一つひとつをそれぞれ5万回リツイート。その後毒のある中傷合戦やその記者に対する否定的なコメントをしかければいい。この場合の総費用は5万5千ドル(約612万円)。ライバルを蹴落としたい政治家にとっては決して高い金額ではないだろう。

 
 大規模な選挙キャンペーンの場合、まずフェイクニュースを生成し、人気サイトと相互リンクさせる。その後ソーシャルメディアのフォロワーを動かし、何百万もの「いいね!」を有料で購入する。これを繰り返して話題を集め、フェイクニュースを実際のマスメディアが取り上げればしめたもの。あとは広まるに任せればいい。これを実施するには12カ月で40万ドル(約4450万円)ほどの予算が必要だ。

 米連邦選挙委員会に提出された選挙資金収支報告書によれば、昨年の大統領選挙でトランプ大統領がテレビ広告に支出した額は2億3900万ドル(約266億円)。

 そう、ネット工作の専門業者を使ってキャンペーンを行うのは、テレビで広告を打つよりも大幅にコストパフォーマンスが良いのである。

 日本でも同様のビジネスを行っている業者は無数にある。ネットで目にする「市井の人々の意見」がはたして本当に「世論」なのか、それとも業者によるものなのか。受け手が慎重に判断しなければならない時代に突入しているのだ。

週刊朝日 2017年7月7日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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